世の中、不思議なこともあるもんだ。
これは友達の口癖なんだが、なんかそいつは見えるらしいんだよなぁ。
大学であった話の一つを話すよ。
俺はフードコートでアルバイトしていたんだ。
まぁ、なんか、蕎麦屋やらカフェやら色々とあるところで、そういうところは会社が従業員を一括管理していて、店長がこの人はあっちとかなんとか決めていく形式なんだ。
バイト代はそこそこよかったから小遣い稼ぎで大学あるときは週二、長期休暇のときは週四くらいで働いてた。
で、あれは二年の夏ごろかね。たまたま、その日、自分の担当してる持ち場で一緒に働いてるおばちゃんがどうしてもシフトをすぐに切り上げないと行けない用が出来たらしいんだ。
で、俺は11時から17時のところを延長戦で19時まで伸ばすことになったわけなんだ。
まぁ、接客で大体16時から18時くらいはフードコート、特に飯屋系統は暇なんだよね。
たまに来る客数人捌いてやることもなし、が普通なんだ。
で、長くてダルい暇な時間帯を俺はボーッと過ごしつつ、中にいる年配のパートの婆ちゃんにたまに注意されてはアレコレ仕事を探してやってというような無為な時間を過ごしたんだよ。
で、18時そこいらで夕方くらいになったときに変な奴が来たんだ。
なんか、居るんだか居ないんだか、良くわからない影のやたら薄い奴がね。
客かぁ、なんて思ってスタンバイしていると、そいつは券売機(自分の持ち場は券売機で客が買った食券を受け取って通す仕様だった)を無視して、俺のとこにトボトボ歩いてきたのよ。
「……ぁ……す……」
なんか、そいつの声はボソボソ言ってて聞こえない。とりあえず、券売機で食券を買って貰わないと何にも始まらないので、券売機に行くように促したんだ。
「ぉ……ぃ……」
でも、そいつはまた蚊が鳴くような声でなんか言ってるんだ。流石に困って、中にいるベテランのパート婆ちゃんに接客の援護をお願いしようと呼んだんだ。
すると、その婆ちゃんは「何を言ってるんだ、お前は」という顔をしている。
だから、現状を説明しようとして、中の方に声を掛けたんだ。
「あの、今、来ているお客様なんですが、どうも、こちらの言葉がわからな……」
すると、婆ちゃんはそれを遮ってピシャリと言い放った。
「あんたねぇ。誰もいないとこで何を接客してんだい。あんた、7時上がりだろ?接客の練習する暇があるなら、引き継ぎが上手く行くように今のうちに夜に来る客を捌けるように色々と準備しなさいよ。ほら、早く」
「は……?」と思って、カウンターの方を振り向くと誰もいない。俺は「ポカーン(°Д°)」という感じで途方に暮れたが、婆ちゃんは俺のとこに来て背中を叩いてから急かすように言った。
「ったく、呆けるにゃあんたは若すぎるよ。ほれ、中に行きなさい。中の仕事のやり方は教えたでしょ?今日は私がカウンターやったげるから」
そして、婆ちゃんに言われるがままにカウンターと中を交代した。
まぁ、忙しくなりそうな微妙な時間だったわけだが、その時は客が珍しく少ないときだったので苦手な中の仕事は何とかこなせたんだが、帰りのときに一部の他のバイト人とかにチラ見されたり道行く人にもなんかチラ見されたりして、なんか気味悪くなったんだ。
それで、嫌な気分を愚痴るためにその見える友達の黒木(仮名)を呼び出したんだ。
飯は俺持ちで。まぁ、黒木とは大学入ってからやたらと絡んでいて、なんかオヤジになっても付き合いありそうなそんな仲だったわけで快く付き合ってくれたんだ。
で、飯を奢ってもらえるということでランラン気分でやってきた黒木は俺を見るなり、コンビニに行こうとか言い始めた。
そして、黒木は迷いなく塩を買おうとしたので、「なんで、塩を買うんだよ」と思わず突っ込みを入れると黒木は溜め息するだけ。それで開口一番に言ったのはこれ。
「これをお前にぶちまけるから外で待ってろ」
「お前、俺になんか怨みでもあんのか……」
塩をかけられるのが嫌だった俺は味の素だかなんだかの塩を片手にそう言った黒木を全力で制止して、俺は無理矢理黒木をファミレスに連れ込んだ。
「お前なぁ。霊が見えるとか与太話くらいには面白いけど、本気で法事帰りとかでないやつに塩を掛けるなんてあるかよ。常識的に考えてさ」
理系の俺は基本的に幽霊何て言うのは気の迷いから生じる幻覚かなにかとしか思っておらず、黒木の怪談話を与太話として面白がって聞く程度だった。
だが、黒木に本当に塩を掛けられそうになったから気味が悪くなったことはぶっ飛んで、黒木に説教するような感じになったのだが、黒木はそんなことは一切構わない様子でこう言った。
「お前、バイト先で変わったこととかあるか?電話でバイト終わってから何だか気持ち悪いことあったとか言ってたろ」
「人の話を聞けよ!」と内心ムカつきながらも渋々今日のバイトの出来事を話すと黒木は何か納得したような顔をして言った。
「お前、明日はバイトあるか?そのおばちゃんと会うか?」
いきなり、そんなことを言い出した。
「いや、休みだよ。休みだから予習とか積み上げてる本とゲームの消化と惰眠を貪るから忙しい。後、そのおばちゃんは明日はいると思うよ。今日だけとか言ってたからさ。でも、会わないな。明日は」
投げやりな回答をすると黒木はこちらを真っ直ぐ見て言った。
「じゃ、明日、お前のバイト先で、お前の持ち場のとこに行って、そこで俺と昼飯食おう」
こいつ、やっぱり、俺に怨みでもあるのか……。そう思うくらいに嫌な提案だった。なんで、わざわざ自分の働いてるとこに飯を食いに行かなきゃならないんだよ、と。
でも、黒木が奢るからというので渋々承諾した。
そして、次の日、黒木と昼飯を食うことになった。
「ほい、食券。例のおばちゃんはあの人だな?行ってこい」
黒木が軽くそんなことを言いやがったから流石に「何を言いやがってますか!?てめぇはぁ!!」と突っ込んだ。
だが、黒木は涼しい顔をして、またもや意味不明な発言をした。
「今のお前じゃないとダメなんだよ」
黒木の有無を言わさぬ態度と飯を奢ってもらってることで断れる立場にない俺は盛大に溜め息をついてからおばちゃんのいるカウンターで食券を渡した。
「あら?あんた、こんなとこで……」
と予想していた会話になるかと思ったら、おばちゃんは目を見開いてから数秒して号泣し始めた。
中にいた婆ちゃんも出てきて、どうしたのかと辺りを見て、俺を認識すると何となく事情が分かったというような顔をして、店長をコールして社員さんをヘルプで呼び出し、そのおばちゃんを休憩室へ連れていった。
何が起こったか分からなかった俺はカツ丼を社員さんから受け取って、スタスタと席を確保した。
後から同じくカツ丼を持った黒木がすっきりした顔でこう言った。
「ま、良いことしたかな。世の中、不思議なこともあるもんだ」
そう言ってカツ丼をガツガツ食らってった。
また、ポカーンとしてる俺に黒木は食い意地を張って「食わないなら貰うぞ」と言いやがったから軽く小突いてやってからカツ丼をかきこんだ。
「ま、これでお前も気分悪くなるようなことにはならんだろ。もうちょい遅かったら、お前は逆恨みされてたろうけどな」
「だから、お前は何を言ってんだ?」
「知らないのはあの職場でお前だけか」
訳のわからないまま、黒木に呆れられて、何だかイラッとしたが、その日は特に何もなく無事に過ごせた。
後日、なぜか、あのおばちゃんからお礼を言われたが、その時には俺はよくわからなかった。
それから数日してから黒木に例の件を聞くと「たまたまお前と面識があったからお前に憑いたんだよ。あのおばちゃんに会いに行くためにな。これで察しろ」とかなんとか。
そして、おばちゃんの息子さんがあのとき事故で意識不明の重体になったことをずっと後にパートの婆ちゃんから聞いたのは結構後の話。


投稿者:のらねこ