深夜、奇妙な音が私の部屋の天井から聞こえる。
1週間ほど前からだろうか。一晩中聞こえてくる。
また今日も例の音が聞こえる。
ザラ ザラ ザラ ザラーーー。バリバリ、ガリガリ、ザリザリ・・・・・・・・。
毎晩、夜中の4時過ぎまでずっとこの調子である。

結局、そういった状況で眠れない夜が2週間ほど続いた。
さすがにもう、ガマンの限界だ。音の原因は、明らかに上の住人だ。
とはいえ、怒りにまかせて怒鳴り込んでもいけないだろう。やんわりとした文面の手紙をしたためた。

『毎晩、奇妙な音に悩まされております。何かの装置をお使いでしょうか?あるいは、テレビなどの音でしょうか、かわかりませんが、時間をずらしていただけると助かります・・・云々』

おとといポストに投函して、今日、その返信が届いた。見るとこう書いてあった。
『お手紙拝見いたしました。当方、病気療養中につき歩行が困難であります。
謎の音については、私はまったく心当たりがありません。
ですが、同じ建物に住むものとして大変気になるところであります。
その件については情報を共有し、原因を究明するなど、しかるべき対策を取りたいと思います。
つきましては、甚だ申し訳ありませんが、一度私の部屋までご足労いただけませんでしょうか?
何卒宜しくお願いします。』

それを読んで、私は即座に上の階に赴いた。ピンポーン。インターホンを押す。
「下の階のものですが・・・」
「はい、開いております。どうぞお入りください」 男性の声だ。
アパートの上下に住んでいるが、これが初めての対面になる。
私は、意を決してドアノブを回した。

「こんにちは・・・」と言いかけて、私は息を止めた。
生臭いようなイヤな匂いがする。血の匂いだろうか?
そして、バリバリバリ、ガリガリガリ・・・例の音が聞こえている。
部屋の奥から聞こえる。
ほらみろ!そうじゃないか!何が心当たりがありませんだ!私は憤然とした。

やがて室内の扉が開いて、その部屋の主が登場した。
むせ返る匂いと同時に現れた住人は、頭からつま先まで、
全身がみごとに真黒である。日焼けの黒さではない。
墨汁のような、完全な黒色だ。

よく見ると、小さな粒粒が全身を覆っている。
あまりにも異様な光景に、戸惑った。
「かゆくてかゆくて、ダメなんです・・・毎日毎日、こうして掻き毟ってしまうんです」
住人がバリバリと身体をひっかくと、4mmくらいの黒い粒が大量にこぼれる。
ポロポロポロポロ・・・。
BB弾より一回り小さい真黒い粒がこぼれ落ちる。
それがあたり一面に飛び散っている。足の踏み場もない。
「これは玉状のカサブタなのです・・・」
黒い種状の物体が取れた個所は、驚くほどの白い肌。
弾の受け皿状に醜く凹んでいる。
デコボコの凹んでいるところいは針穴ほどの赤い点が見える。
それは、傷であった。血がにじんでいるのがわかる。
なるほど、鉄の匂いが部屋中に充満しているのは、そのためだ。

「掻くと弾が取れる。血が出る。たった半日でまん丸のまっくろいカサブタができる。
またかきむしる。その繰り返しなのですよ!ワハハハ!」
相手が笑うポイントが分からない。私は思わずたじろいだ。
「特に頭がひどいんです・・・見てくださいな・・・」
上階の男は、そういうと頭をザリザリと掻きはじめた。
「かゆくてかゆくて、止まらない!キィー!!!」
男はつらそうに叫ぶと、自分の頭を両手でつかんだ。
「カユいのは、痛いよりつらいのだ!」

彼は、弾状の粒を つかんでは投げ、つかんでは投げた。
見る見る、男の頭は削れていいて、小さくなっていった。
ひとしきりかきむしった男は、気が済んだのか、その動きが止まった。

彼の首から上の頭部は、跡形も無くなってしまった。
それでも奴は生きている。肩で息をしている。

そして、ゆっくりと ゆっくりと、こちらに歩いてくる。

私は、逃げることも忘れ、その場に立ち尽くしていた。


投稿者:みつる