ピンポーン。

実家にいる母との電話中に、私のうちの玄関で呼び鈴が鳴った。

「うん、じゃあまた電話するわね。近々、帰るからね」

あいさつもそこそこに、インターホンに向かう。

ピーンポーン。
また呼び鈴が鳴った。

最近は物騒な事件も多い。

事前に電話連絡のない訪問者には注意が必要だ。

特に、私のような女性一人住まいの場合は。

とはいえ、宅配便の可能性もあるわけで、まったく居留守ばかりというわけにはいかない。


インターホンで返事をする。

「はーい、どちら様ですか?」

返事がない。




ピンポンピンポンピンポン!

また鳴った。ずいぶん鳴らすなあ。

さっきの返事が聞こえなかったのかなぁ?

インターホン、壊れちゃったかなぁ?

嫌な予感がしたのだが、ドアのチェーンがかかっていることを
横目で確認しつつドアを開けた。


「?」


誰もいないと思ったのもつかの間、一人の男がドアの前に躍り出てきた。

短髪、いわゆるスポーツ刈りだが襟足だけ伸ばした髪型。

額は異常に狭く、やけにしわが目立つ。

口をゆがめていやしい表情。年齢は40代半ば。

そのくせ、昭和の小学生のような出で立ちで、白い半袖Tシャツ、紺色の半ズボンからは節くれだった手足。
足元は素足にズック靴を履いている。

「ヒシシシ・・・、帰ったと思った?思っちゃったの?

あのね、お嬢さん一人なの?え?え?どうなの?」

最悪だ。これだから古いマンションは嫌なのだ。セキュリティもへったくれもない。

私は怪訝そうに言った。

「なんですか?」

「あのね、あのね、あのね。○○新聞。これとって」

見たことも聞いたこともない新聞だ。

いわゆる業界専門誌とも違う、いかにも架空の新聞。

「いりません。間に合ってます・・・」

「いま洗剤渡すから、はい、受け取ってホラホラ」

「ですから要りません」

男はドアの隙間に片足を挟んで、体をねじ込んで来ようとする。

10センチほどの隙間だ。まさかとは思うが、この華奢な小男なら
もしかして室内に入ってきてしまうかも!?

私は、起こりうる最悪の事態を想像してしまい、思わず声がうわずった。

「いらない!帰って!助けて!」

すると、隣の部屋のドアが開いた。

私たちのやり取りが聞こえたのだろう。

隣の住人が助け船を出してくれた。

「ちょっとお!要らないって言っているじゃないか!あまりしつこくすると、警察呼ぶよ!
彼女一人住まいなんだから、押し売りなんかするなよ。電話中だったんだから、邪魔しないであげなよ!」

さすがの勧誘男も、隣人の剣幕に押されてタジタジになった。
男はブツブツと聞こえないほどの声で何か毒づきながら
片方の頬をヒクつかせ、ニヤリと下卑た笑い方をした。
そして、マンションの非常階段をカツーン・カツーンと音を立てて下りて行った。

隣人にお礼を言おうと思ったけれど、すでにドアは閉まっていた。

「え?私、お隣さんに会うの今日が初めてだ・・・。
ていうか、住んでたの?うそ?
ちょっと待って・・・、どうして私が独り住まいと知っている???

どうして電話中だったって知っているの???


あれ?今、会ったばかりなのに、どういう顔か?姿かたちもぜんぜん思い出せない・・・」


投稿者:フワフワ