これは石川県金沢市にお住いの主婦 木幡えつみさん(仮名)の怪異体験である。

ある晩の事 寝室で休んでいると廊下から何やら奇妙な音が聞こえてきた。
「ねえ 何か変な音聞こえない?」
不審に思い 傍らの夫を起こそうとしたがぐっすり寝入っていたせいで取り合ってくれない。

ギイイッ・・・
突然 寝室のドアが開き 男の姿が・・・。
それも何か苦しそうに 「助けて」とすがるようにえつみさんに手を伸ばしてくるではないか‼

「きゃああああ・・・」
突然の悲鳴に 夫も飛び起き
「何だ 一体どうしたと言うのだ」
「あああ・・・あそこにお化けが・・・」
「ええっ 何もいないじゃないか。変な夢でも見たんじゃないのか?」
夫は布団をかぶり さっさと寝入ってしまった。

それから数日後いつものようにキッチンで夕飯の支度をしていると
「ギイッ」
勝手口の戸が少し開いたかと思うと またあの時の男らしい人影が出現したのだ。
「たた助けて・・・」
すがるような手。
あまりの恐ろしさに夢中で持っていたコップを男めがけて投げつけていた。
「ガシャーン」
割れたガラスの音でハッと 我に返った時は男の姿はなかった。
と その時 えつみさんの携帯が鳴り随分と疎遠になっていた実家の兄からで 長男の大学受験を理由に亡き父の三回忌は見合わせたいと言う内容であった。
話を終え 割れた勝手口のガラスを片づけようと振り返ると またしてもまたあの男の姿が。
それに今度は 顔が血だらけなのである。
茫然と立ち尽くしていると 「たた助けて・・・助けてえつみ」
えつみさんは自分の名を呼ばれ 立ち尽くしたままじ~と 男の顔を見るとなんとそこには二年前に亡くなった父の顔が現れたのである。
「お お父さん」
「く苦しい 助けてくれ みんなに会いたい」

三回忌を中止され忘れられていく事が無念で 娘に助けを求めていたのであろう。
えつみさんは兄を説得しようと実家を訪ねていった。
仏壇に手を合わせたのは父の49日以来 実に2年ぶりだった。
埃だらけで花も供えられていない状態だった。
よく見るも 位牌が無い。
「お兄さん 位牌は? 位牌はどうしたの?」
「おかしいな あるはずなんだが・・・」と兄が仏壇の脇から探し出した位牌は 葬式のとき使ったままの白木のもの。
裏返してみると ネズミにかじられたような跡がありうっすらとシミもできていた。

あの時の血だらけの顔は 位牌のせいだったのか。
仏様をお譲りしても結構ですよと言う義姉の言葉に呆れて返す言葉も無かったが その言葉どおりに遺影と位牌を自宅に持ち帰り 即席の仏壇を作った。
そんなえつみさんの傍で 夫が口をきった。
「義父さんの三回忌は 家でやろう 誰の親であろうと供養をするのは我々の務めだ」
真新しい位牌も作り ささやかながら無事三回忌を終えた。                           その夜の事。
えつみさんの夢の中に 父の姿が現れた。
「今日は 本当にありがとう。お前たちのおかげだ。ありがとう ありがとう。」
その顔は穏やかに微笑んでいた。
えつみさんは夢の中なのか現実なのか解らなかったが とにかく涙がとまらなかった。

その日以来 あの怪異現象はなくなった。
それにしても何故 父は兄ではなくえつみさんの前に現れたのだろうか。
愛情の欠片もない先祖供養もほったらかしの兄夫婦を諦め 心優しいえつみさん夫婦を頼り自分を忘れ去られていく無念を訴えていたのであろうか。
しかし今は思いが通じ 安らかに眠っているに違いない。


投稿者:ぶうたらこん