小さな小さな田舎の町に、和子さんという女性がいました。
和子さんにはヒロ君という3歳の息子がいました。

ヒロ君は女の子のような顔立ちで凄く愛らしく、人見知りもせずに人懐っこく、町民達はみんなヒロ君を可愛がっていました。

ある日和子さんは車の助手席にヒロ君を乗せ、その町唯一のスーパーへ向かいました。

大きなカーブを右折した時、ヒロ君は車の外へ落ちてしまいました。

扉が開いたのです。

そして和子さんは車の後輪でヒロ君を轢いてしまいました。

ヒロ君は肋骨と腰の骨が砕け、内蔵が破裂。

救急車に乗せましたが病院に着く前に幼い命をなくしました。


この話は私の田舎で実際にあった話で、私が小学生の時の出来事です。
事故現場はうちのすぐ近く。
救急車に乗せられるヒロ君を実際に目撃しました。

なにせ小さな町ですから、町民という町民が現場へ駆け付け、花やお菓子、オモチャなどをお供えしました。

そしてその後、当然といえば当然なのですが、和子さんは狂ってしまいました。

町中の車のタイヤをナイフで切り裂き出したのです。

町民は最初タイヤを見るとヒロ君を思い出して辛いのか、同じような事が二度と起こらないように切り裂いているのか、と、いたたまれない気持ちになり誰一人和子さんを責める人はいませんでした。

ですが、その行為があまりにも続くので町長と交通委員会の会長(これは私の爺ちゃん)が軽く注意をしにいきました。

すると和子さんは
「あの中にヒロがいるんです。早く出してあげないと可哀想でしょ?」
と、言ったそうです。

どうやら和子さんはタイヤのゴムの中に息子がいると信じているようでした。

町長は和子さんを病院に入れたほうがいいと判断し、少し離れた場所の病院から迎えをこさせました。

迎えの車は白いワゴン車で、屋根にスピーカー?が付いていました。
町民達は和子さんを温かく送り出そうと集まりました。

和子さんは病院に行くのを嫌がり、涙で顔をグチャグチャにしながら
「ヒロを探すんだ!ヒロを探すんだ!」と叫んでいたのを覚えています。

そして不思議な事が起こりました。


町民と病院の従業員2人が和子さんを取り押さえている時、病院の車のスピーカーがいきなり
ガガガガっと音を立てたのです。

そして男の子の声で

「ママ、僕はママを恨んでなんかいない。僕は大丈夫。ママも早く元気になって欲しい。」
とノイズ混じりに声が流れました(実際はもっと長く話していましたがこれだけしか覚えていません)。

あたりはあまりにも突然の事に騒然。

車の中には誰もおらず。

和子さんはそれを聞いて
「ヒロ!ヒロ!」と大号泣しながら車に乗り込み行ってしまいました。

私は当時、幼いながらに天国のヒロ君が和子さんの為に来てくれたんだと思いましたが、今思えばヒロ君は3歳。
あんなにうまく喋れるのかな?と疑問に思っています。
スピーカーからした声はかなりペラペラと話せていました。


その後は暫くの間、町中がその話で持ちきりになっていましたが、その後のことは良く分かりません。
でも和子さんが帰ってくることはありませんでした。

あれから何十年も経っていますが今でも現場には花やオモチャが供えられて、誰が作ったのかは分かりませんが、小さな位牌のような物も立っています。

恐ろしい話では無いのですが、私が唯一経験した、悲しくて不思議なお話でした。


投稿者:名無し