これは私の恋人から聞いたお話です。
彼の地元は北の地方。かなり田舎な所だったそうです。
彼には幼馴染みの女の子がいて、名前をきいちゃん(仮名)と言ったそうです。
きいちゃんと彼の家はお隣さん同士だったので、毎日のように二人は山で遊んでいました。
彼が小学二年生の夏に事件は起こりました。

いつものように二人は山の川べりで遊んでいたそうです。その川は少し流れが急で、彼もきいちゃんも川には入らないようきつく言われていたそうです。でもその日は八月半ばのかなりの猛暑日。二人はあまりの暑さについ川に入って水遊びをしてしまったそうです。
ですが、やはり彼は溺れるのが怖かったのか、浅瀬で少し水に浸かったりしていました。反対にスイミングスクールに通っていたきいちゃんはどんどん深いところに泳いで行ってしまいます。
彼は流石に危ないと思い、きいちゃんに注意を促そうと立ち上がりました。
その瞬間、きいちゃんが水面に沈み、見えなくなりました。
彼はすぐにきいちゃんが溺れたと悟り、川に飛び込みました。
凄まじい流れの中、必死にきいちゃんに向かって泳いでいた彼は、あと少しというところで力尽き、意識を失ってしまいました。

彼が目を覚ましたのは、その日の夕方でした。近隣の人が二人を見つけ、すぐに病院に運び込まれましたが、残念ながらきいちゃんは助かりませんでした。きいちゃんが溺れた原因は、渦のようになった川の流れに取り込まれてしまったからだそうです。
その後、彼は両親の仕事の都合で私が住んでいる地域に引っ越してきました。
中学に上がり、初めて私を見た時、彼はものすごい衝撃を受けたと言います。


私は、きいちゃんに瓜二つでした。


きいちゃんは赤みがかった黒髪のボブヘアーで、かなり小柄な女の子でした。
私は彼に会った時、腰まであった髪をバッサリと切ってボブヘアーにしており、髪の色も父に似た赤みがかった黒髪でした。
そして私の身長は150cm。中学生にしてはかなり小柄なほうです。

私がきいちゃんの話を聞いたのは彼と付き合いを始めた後でした。

その日はきいちゃんが亡くなった日と同じような暑さで、私は彼の部屋でその話を聞いていました。

「本当ビビった。一瞬生まれ変わりかと思ったくらい」
彼は苦笑しながらそう言いました。
私は彼を励まそうと、いろんな話題を振りましたが、その日一日、彼はあまり元気がありませんでした。



その日の夜のことでした。
私は彼の家に泊まる約束をしており、彼の部屋に布団を敷いて寝ていました。
以降は、彼から聞いた話です。


夜中、何か胸騒ぎがして彼が目を覚ますと、私が布団の上で正座をしていたそうです。

「・・・・・結衣?どうしたの?」

彼が私に話しかけると、私は俯いたまま小さな声で、

「あきちゃん」

とだけ言いました。
彼の名前はカズアキ。私は普段彼のことを「カズ」と呼んでいました。
彼は直感的に目の前にいるのが私ではないことを理解したそうです。
そして、彼は気付きました。
『あきちゃん』というのはきいちゃんが使っていた彼のあだ名であること。
そして、今日はきいちゃんの命日であること。

「・・・・・・・・・・きい、ちゃん?」

その瞬間私がゆっくりと顔を上げました。
私の顔はきいちゃんの顔になっていました。
きいちゃんはニッコリと彼に微笑みかけました。

彼は呆然ときいちゃんを見つめていました。

きいちゃんは慈しむような笑顔で口を開きました。


「なんで助けてくれなかったの?」


彼は動けなくなりました。
そして気づきました。きいちゃんは笑顔こそ浮かべているものの、その目は全く笑っていませんでした。

きいちゃんが再び口を開きました。


「許さないからね」


そして何事もなかったかのように布団に入り、目を閉じました。

顔は私の顔に戻っていたそうです。この間の記憶は私にはありませんでした。
それ以来、彼は毎年行っていたきいちゃんのお墓参りに行かなくなりました。

「たぶん俺が墓参りに行ってもきいちゃんは喜んではくれないから。」

彼はそう言っていつものように苦笑していました。


投稿者:結衣