学生時代 古本屋でアルバイトをしていた時の事だ。

その日 若い女性の声で古書の買い入れを依頼する電話があった。
自宅まで来て欲しいと言う。
「どんな本でしょうか?」
出張買い入れは手間暇がかかる。
売れそうもない本なら断らなくてはならない。

「古い浮世絵みたいな気色の悪い画集みたいなんですが・・・」
浮世絵・・・ね。
まあいいか。 店主とも相談しダメ元で行って見る事にした。

約束の日 言われた住所を頼りに行ってみるとそこには築5~60年は経っているかのような明らかに周りの住宅街とは不釣り合いな古めかしい入母屋造りの大きな二階建ての家があった。
門柱のかすれた表札を間違いなく確認し声をかけてみた。
「ごめんください。」
すると家の奥の方から「はーい。」と声がして7~8歳位のその当時にしても珍しい坊ちゃん刈りの男の子が出て来た。
「あ あの お父さんか お母さんは?」
「いません。でも本のことは聞いていますから中に入って見ていてください」と やけにはきはきと答える。
男の子の案内で薄暗い座敷に来ると「どうぞごゆっくり」と言っただけで ピシッと戸を閉めその男の子は行ってしまった。
部屋の中央に随分と日焼けしたような段ボール箱があり どうやらそれに件の本が入っているようだった。
私はたいした期待もせず箱の中を開け(本)を開いてみた。

案の定 伊藤晴雨の絵だった。 いわゆる(責め絵)の大家で血生臭い絵を描くことで知られている。
だが次々に広げて見て 驚いたのはそれがどうやらオリジナルらしいという事だった。
すっかり興奮して全部を取り出してみると あるわあるわ 伊藤晴雨のみならず発禁処分を受けたはずの橘小夢・竹中栄太郎 etc。
それも全部肉筆なのだ。
(久々の 大ヒットだ‼)と喜んでいると 何の前触れも無く 背後の襖がぴしゃりと開き「すいませーん。お待たせしました。」・・・と女性の声した。
振り向くと どう見ても中学生くらいにしか見えない女の子が立っていた。
それもボロボロの服を着て よく見ると顔のあちこちがみみず腫れで鼻血が出ている。
それでもその女の子はニッコリと笑い直立不動のままだ。
何が何だが訳が解らず怖くなって反対側の障子戸を開け 縁側から外へ駆け出し一目散に逃げ出してきた。

無我夢中で店に戻ると 先程の出来事は一体何だったのだろう?
夢でも見ていたのか或はまるでキツネにつままれたようなそんな感覚だった。

その後 一か月程経過した頃 好奇心からか怖いもの見たさにそっとあの家を見に行って見た。
すると あの日とは様子が全然違っていた。
あの家が建っていたはずの場所には家が無く空地になっていた。
あの後すぐ取り壊したのかな?・・・。
色々考えながら どうも腑に落ちない感じが拭いきれないまま近くの食堂に入り天ぷらうどんを食べながら何か知っていないかそれと無く訪ねてみた。
食堂のお婆さんの話しでは その空地なっている場所に建っていた家には昔 二人の子持ちの後家さんが住んでいたのだが若い男とデキてしまい 二人の子供が邪魔になり 殺して床下に埋めてしまった事件があったのだと言う。
昭和40年代初め頃の事件なのだそうだが・・・それ以上詳しくは聞かなかった。

しかし私は不思議とか 怖いと言うより何だか納得した気持ちになった。



投稿者:ぶうたらこん