これは、私が高校1年生の時の話です。
私が通っていた高校は、5月頃に1年生を対象に合宿が行われていました。所謂、親睦を深めて友達を作るのが目的の合宿です。

私達の場合は、岩手にある某少年自然の家に2泊3日で泊まりに行きました。

時期的にクラスにもだいぶ慣れ、友人も何人か出来始めている時期だったので、私は友人達と話ながら、目的地へのバスの中で寛いでいました。その友人の中にYさんという女子がいたのですが、彼女は普段から霊が視えるタイプの子で、よくバスで前に座った人の肩に手が乗っていて怖かった…等と言っていた記憶があります。
そんな彼女に、この合宿中事件が起きました。

その前触れらしき出来事は、初日の夜に起こりました。その少年自然の家は山奥にあったのですが、近くに電波塔もあったので携帯の電波は普通に繋がっていたのです。しかしある一定の区間だけ突然電波が途切れてしまい、クラスメイト達は不思議に感じていました。私はYさんとは違い霊は視えないのですが、この時何となく胸騒ぎがしました。
そして翌日、事件は起きたのです。

朝、朝食を摂る為に食堂に集まったところ、Yさんと同じ部屋の生徒達がどこか焦ったように話合っていました。
「どうかしたの?Yさんは?」
そう聞くと、おろおろとした様子で彼女らは顔を見合せ、一人が口を開きました。
「それが…朝起きたら天井の隅を見上げていきなり泣き出して…その場に座り込んじゃって動けなくなってるの。私達じゃどうすることも出来なくて困ってて…」
まさか。私は冷や汗が背中を流れるのを感じました。彼女らに変わった様子はありません。しかしYさんだけがそうなっているとすれば、霊関係で何かあったのかも知れない。

「部屋まで案内して貰える?とにかく行ってみないと分かんないから」
そう言うと彼女達は戸惑いながらも部屋へと私を連れて行ってくれました。
彼女達はドアを開けたまま出てきたらしく、入り口が僅かに開いていました。

「Yさん?」

ギイッと鈍い音をたてながらドアを開くと、部屋の奥の畳の上に、彼女はぺたんと座り込み泣いていました。そのただならぬ様子に思わず1歩足を踏み入れた瞬間、もの凄い圧力と寒気がが部屋の天井から私へと襲い掛かってきたのです。

「!?」

私は思わず膝から崩れ落ちそうになりました。そんな私を見て、Yさんと同室の彼女達は不安そうに私を見てきました。

「大丈夫?私達も中に入った方が…」
「いや、君達は入らない方がいい。多分ヤバいと思うし」
大丈夫、何とかするから。そう言って彼女達に先に食堂に行くように頼むと、まだ心配そうにしながらも言う通りに先に行ってくれました。

正直どうすればいいか分からなかったのですが、当時は被害を最小限に抑える事が先決だと思い彼女達を先に行かせました。彼女達の姿が見えなくなり、少々安心したのも束の間、Yさんの泣き声を聞き再び私は現実へと引き戻されることに。

「ヤバいけど、やるしかないよな…」

正直もの凄く怖かったです。恐る恐るもう1歩足を踏み入れると、更に寒気と圧力が。しかしここで引き下がる訳にはいきません。私はそれらを振り切るように、一気にYさんの元へ駆け寄りました。


「Yさん!!大丈夫!?一体何があったの!?」

するとYさんは、泣きじゃくりながらふるふると指を天井へ向けました。

「あそこに…何かいるの!!」

私は彼女の示す方向へと顔を向けて…思わず絶句しました。

そこには、真っ暗な空間がポッカリと開いていたのです。それは信じられないことに周囲の空間をぐにゃりと歪ませて存在していました。まるで小さなブラックホールのようなそれは、私の常識を遥かに越えていてどうしようもない絶望感に襲われました。

そんな風に私には真っ暗な絶望が広がる、空間を歪める小さなブラックホールにしか見えませんでしたが、Yさんは「何かいる」と言っていました。恐らくYさんは霊感が強い為、私には視えない何かが視えているのでしょう。普段霊が視えない私でさえ不気味な空間が視えているということは、相当危険な存在がそこにいるということです。私はとにかく、彼女をこの場から連れ出さなければと必死になって彼女に声をかけました。

「とにかく今は逃げよう!!これは本当にヤバいって!!」
「うん…うん…!!」

私は彼女の腕を引っ張り無理矢理立たせると、一目散に部屋から駆け出しました。彼女は部屋から出た後も暫く泣いていましたが、段々と落ち着いてきました。

彼女と共に食堂へ行くと、彼女の同室の生徒達が安心したように駆け寄ってきました。

「大丈夫だった?」
「何とかね。でも結局何だったのかは分かんないけど…もう暫く様子見した方がいいかも」

朝食を食べた後、部屋に戻らなければいけないので心配でしたが、どうやらその頃にはその真っ暗な空間も無くなっていたようです。

結局、あれが何だったのかは未だに分かりません。Yさんもこの出来事のことはあまり話したがりませんでした。ただ、もしかするとあの空間は霊道で、Yさんは霊道を通る何かを視てしまったのではないか、と私は考えています。私にも不完全ながらも視えたのは、その何かがとても強い霊だったということ、そして霊が視えるYさんが側にいたこと、この2つが要因だったのではないかと思います。

今も恐らく、この少年自然の家は変わらずそこにあることでしょう。もしかしたら、私達のように何かを視てしまうかも知れません。あの場に何か曰くがあるのかは分かりませんが、もしも遭遇してしまったら、どうか無事でいて欲しいと思います。


投稿者:海猫