レッカーの仕事、聞いた話⑥です。
これは、同僚がまだうちの会社に来る前の、別会社の頃の話。推定ですが、多分6年くらい前の話じゃないでしょうか。
いつもの如く、仮名Aさんで。

彼はその会社では、4トン専門でやらされていたらしく、未だに前の会社の文句を言ってます。4トンは一番実用性が高いので、面倒な仕事が多いんですよ。実は俺も4トンは嫌いです(笑)キャリアカーならOKなんですけどね。

10月の半ば頃だそうです。その日、空である場所に行って荷物をもらい、それを違う場所に運び、そこでまた荷物をもらって会社に帰る。(その荷物は次の日また違う場所に運ぶ)そんな仕事をしてたんですね。
事は荷物をもらって会社に帰る時に起こりました。

ある産業道路を運転中、夜の11時前後だったそうです。
急にトラックのバランスが狂ったので、すぐにパンクだと思ったようです。
トラックの後輪はダブルタイヤ。一応名目上は1本パンクしても走行に問題ないとされてるんだけど、全然問題ありなんです。貨物積載時は特に。
ちょっと専門的になりますが、トラックは前後ともにリッジドアクスルです。一応バランスを崩さないようにはなってますが、1本パンクすると他に負荷がかかり、最終的にはバーストします。(この辺興味ある人はググると詳しく載ってると思いますが)

Aさんもそれは重々承知してたので、すぐに路肩に停車したんだよね。
降りて見てみると、左の外輪が確かにパンクしてたそうです。面倒くせえなぁと思いながらも、荷物もそこまで重いものではなかったので、積んでいた油圧ジャッキでタイヤ交換にとりかかった訳です。
もうちょい大型車だと、業者呼ばないと無理なんだけど、それもまた4トンの面倒なところで、何とか直せちゃうんですね。
まして最近のトラックはISOって言って、外輪だけ外したくても内輪も外れちゃうタイプ多くて、彼のもそうでした。スーパー面倒です。

とりあえずタイヤを外し、スペアのタイヤを入れようとした時、目に入った軸に何かがベトッとついていた。
暗くてよく見えないが、手を伸ばして軸を握って擦りとってみると、物凄く嫌な感触。
明るいところで見てみれば、想定内ではあったんだけど、やっぱりベッタリ血のりだったそうです。
たまに、ネコとかタヌキとかを轢いちゃうことって、正直あるんですよ。
Aさんもこの時はそう思ったようで。ただ、軍手を浸透しないので、時間は経ってるみたい。
その会社もうちと同じく、決まった車じゃなくて色んな人が違う車に乗り換わるので、多分前に乗った誰かが、動物でも轢いたんだろうと軽く流したそうです。

タイヤを交換し終わり、運転席に戻ったAさんは、軍手を外して助手席に放り投げ、エンジンかけて発車しました。
ところが、しばらく走っていると何だか車内が妙に生臭い。
窓を開けてやり過ごそうとしても、匂いが抜けていかないと言うか、逆に強くなってる気がしたらしい。
何か変だなと思いつつも、原因は多分これだろうと、放り投げた軍手を左手で手繰り寄せてみた。その瞬間、Aさんは異変に気がついた。

ついさっき、自分が手から外して放り投げた時は、時間が経った血のりがついていた。
今は、血がしたたるくらいビチャビチャ、真っ赤。
悲鳴をあげながらトラックを急停車させたAさん。あわや事故るくらい後ろの車が凄い避けかた&クラクションで走り去った(それはその車が車間とらないのが悪いけどね)くらいの急ブレーキ。
見れば、助手席のシートは血まみれ。あり得ない出来事に気持ちが悪くなり、これはちょっと運転できんと、トラックを降りて携帯から会社に電話をかけた。

「急に体調が悪くなって、運転危ないから、申し訳ないが誰か来てくれないか。○○の側に停車してる。」
という主旨のことを言うと、分かったから待ってろと。ただし、会社からはまだ少し距離があったので、1時間は待つことになったらしい。
Aさんは、ちょっと先に見えた自販機でコーヒーを買い、トラックの脇の縁石に腰を下ろした。
コーヒー飲んで少し落ち着いたAさんは、恐る恐る助手席を覗いてみた。やっぱり血まみれ。
再び縁石に腰を下ろし、「これ、どう説明したらいいだろうか」と考えていた。
時間も深夜24時を回り、行き交う車も殆どなくなった。トラックのハザードの光と音が妙に響く。
辺りを見回すと、ちょうど座ってるので目線の高さがトラックの下になる。ハザードの点滅の度に、トラックの下から何かが垂れているのが分かったそうです。
オイルの垂れる位置じゃない。とっても嫌な予感のする位置っぽい。さっき、血のりがついていた軸のあたり。

怖くなったAさん。見たくないんだけど、見に行ったそうですよ。「何で?ってか、よく見に行ったよね。」と俺が聞いたら、「動物の死体が巻き付いてて、何だやっぱりね、チャンチャン♪を期待した。」と(笑)

見た瞬間、その儚い期待は完全否定されました。さっき乾いていた血のりは、まるで生肉のよう。滴っているのは真っ赤な液体。そして、長い髪の毛が見えた…気がしたそうです。見直した時は見えなかったと言ってました。
いよいよ怖くなったAさんは、トラックからかなり離れて助けを待ったそうです。

しばらくして、応援が2人到着。Aさんは、説明するより見た方が早い、と応援の人に助手席を見るように言ったらしい。
応援の人は、言われるままにトラックに乗り込むが、期待する反応がない。
不思議に思い恐る恐る行ってみると、あれほど血まみれだった助手席は綺麗そのもの。
大丈夫か?と聞かれ、ダメですとしか答えられなかったそうです(笑)

翌日は休みをもらい、次の日。絶対に見間違いじゃないと確信しているAさんは、配車係に自分の前に件のトラックを使ったのは誰かを聞き出した。
幸いにもよく話す人(以後Bさん)だったようで、仕事に出ちゃう前にとすっ飛んで行ったそうです。

Bさんを捕まえられたAさんは、前の日に何かなかったかと問いただした。
何もなかったと言い張ったBさんは、キレてさっさと仕事に出てしまったそうです。
その様子があからさまにおかしいと感じたAさんは、例の日のこと、Bさんの態度を専務や社長に話して、Bさんが帰ったら話してほしいと言った。
証拠として、血のりのついた軍手もあるし、洗ってないから後輪の車軸にも血のりがついてるはずだと。
Aさんがあまりにも真剣なので、お偉いさんもトラックと軍手を確認した。さらに見てみると、後輪軸のあたりに何か擦ったような跡も見つかったらしい。

その後、Bさんは人を轢いたことを認めて自主したそうです。警察発表もあり、概要はこんな感じ。
深夜、Bさんは携帯をいじりながら運転していた。通りかかった道路上に50代男性(浮浪者的な人っぽい)が倒れていた。恐らく酔って寝ていた。
Bさんはその存在に気づかずに轢いてしまった。
1度車を停め降りて確認すると、被害者は死んでいたため、怖くなって逃亡した、だそうです。

同じ運転手としては許し難い行為だし、追い詰めたきっかけがAさんの体験だと思えば、被害者の執念なのかなぁと思いますよね。



投稿者:TR