これは俺が小3の頃に起きた、少しだけ不思議な話。

俺の家は、毎年夏休みに温泉旅行に行くのが恒例行事になっていた。朝早くに家を出るから、俺はいつもは閉めない自室のシャッターを前日の夜に閉めておいた。
旅行から帰ってきて自室に戻ると、窓の方からブンブンという音がする。近付いてみると、窓とシャッターの間に一匹のアシナガバチが閉じ込められていた。
近くが竹林だからそこにいたハチが窓にとまっていて、それに気付かないままシャッターを閉めたんだろうと思ったが何しろ小3のガキ。ハチが部屋に飛び込んでくるのを想像したら怖くて窓を開けられなかった。

俺は残酷だが、ハチが餓死するまで放っておくことにした。始めは1ヶ月ぐらいの我慢だと思っていた。
だが、ハチは2ヶ月以上経っても生きていた。飛び回る事はなくなったが、窓の裏側にとまって触角や腹を動かしていた。よく見たら腹の裏側の黒い部分がトランプのスペードに似ていたので、そのハチをスペードと呼ぶ事にした。
そして冬になった。室内の熱が窓から伝わるのだろうか、スペードは冬眠もせずに変わらずそこにいた。俺はスペードの命よりもシャッターを開けられない事に若干イライラしていた。時々窓を叩いて生きてるかどうか確かめていた。スペードはその度に、抵抗するかのように窓とシャッターの間を飛んでいた。
そして年も明けたある朝、俺は腕の痛みで目が覚めた。見てみると赤く腫れている。母親に頼んで病院に行くと医師は「虫刺され、それもこれはハチだね。この季節にハチに刺されるとは珍しいなあ」と笑っていた。母親もそれを聞いて笑っていたが俺は血の気が引いた。
家に帰って真っ先に自室の窓を確かめた。窓を叩いても何もいない。おそるおそる5ヶ月間触ってもいなかった鍵を開けても、窓とシャッターの間には何もいなかった。ビクビクしながら自室を探してみても何もいない。まさかと思って布団を捲ると、そこに一匹のアシナガバチの死骸があった。腹の黒い模様がスペードの形によく似ていた。
あれ以来俺はハチが苦手になった。ハチがどうやって開いてない窓から入ったのか、そしてどうやって布団の中に入って俺の腕を刺したのか未だに分からない。


投稿者:てんてん