レッカーの仕事、スーパーエースの話⑳です。
今回は、フトン屋さん時代後期の話ですね。

その頃、佐藤君の相方をしていたのは入社半年の見習いさんでした。業種が業種なだけに定着率はすこぶる悪く、20人来て1人残るかどうかという世界だったようです。いつも新人指導してるみたいで、そっちのが疲れたと言ってました。

さて、その見習いさんですが、A君としましょう。A君は性格もルックスも普通の、あまり特徴のない人でした。
そのA君と同期で、彼とは真逆に個性が強く、性格もちょっとキツメのB君がいました。彼らは端から見ると友達になりそうもないのですが、何がどうなったのか、まるで親友さながらの関係になっていました。
佐藤君は、B君とは一緒に仕事をしたことはないのですが、初めて見たときから「何か気に入らない」と思っていたそうです。その理由は、後々判明するのですが。

ある日、いつものようにA君を従えて現場に入った佐藤君は、不意にA君から変な話を聞かされました。

内容は、以下の通り。
数日前の連休の入りにB君と飲みに行った。あーだこーだと色々話しているうちに、気づけば電車のない時間。店も閉店。
飲み足りない2人は、B君のアパートで家飲みすることにして、コンビニで色々と買い物をした。

部屋に着くと、これがまた汚い。足の踏み場もないとはよく言ったもの。
ただ、匂いは臭くない。むしろ女性がつける香水のような匂いがした。何の匂いとかは分からないけど、とにかく「いい匂い」。
あ~、さては昨日彼女でも泊まったのかな?と思ったA君は、部屋片付けろって彼女に言われないか?もしくは彼女が片付けてくれないのか?とB君に聞いてみた。
すると、B君は怪訝な顔つきで、俺には彼女はいないし、この部屋に入った他人はお前が初めてだ、と言う。
じゃあこの匂いは芳香剤か何かか?と言うと、そんなものないし、そもそも何も匂わないとB君。
まあその時は、どうでもいいか、と思い、買ってきた袋をあけて酒盛りを始めた。

はっと気づくと、部屋の電気は消え、B君のイビキが聞こえる。どうやらいつの間にか寝てしまったらしい。窓の外は薄明かるい。時計は見なかったが、多分4時~5時くらいだろうか。
尿意を感じたA君は、ゆっくり起き上がろうとした。ところが体が動かない。金縛りのようだ。目だけは動く。
A君は、これが生まれて初めての金縛り。怖くて目を閉じ、早く解けてくれ、と念じていると、B君のイビキにまじって女の声が聞こえてきた。
えっ!?と思い、とっさにB君の方を見たが、首も動かない。ただ、目の端に黒く動くものが見えた。それは、B君に覆い被さるようにして何か言っている。

いよいよ怖くなったA君は、目を固く閉じて知っている限りのお経を唱えてみた。暫くすると、女の声が小さくなった。
お経が効いたのか?と少し安心した瞬間、A君の胸の上にドン!と黒いのもが乗ってきた。
ビックリして目を開けてしまったA君。そこには、長くボサボサの髪の毛と、その隙間から見える死んだ魚のような濁った目、そして、あの「いい匂い」を漂わせた女がいた。半分意識を失いかけたA君に、女は「Bは私のものだ…お前は邪魔だ」と言った。
A君はそこで完全に気を失い、気づいたのは昼過ぎ、いつまで寝てんだとB君に起こされた時だった。
我に返ったA君は、そこに居たくなくて、用事を忘れていたと言って逃げるように部屋を出た。
ということでした。

腑に落ちない佐藤君。「何でそんな話俺にする?」と聞くと、見えると噂の某上司の方(佐藤君をフトン屋に引っ張った例の上司)に相談したら、佐藤の方が凄いからアイツに相談しろと言われたそうで(笑)
とはいえ、何も出来ない佐藤君。そもそも、夢を見ただけの可能性もあると思いA君に聞いてみた。「それが夢じゃないと言い切れるのか?」
A君は、実は自分も夢じゃないかと思ったし、思いたかったと。ところが、後日談があった。一昨日の話だと言って、再び語りだすA君。

仕事終わりに、一緒に飯を食おうと某ファミレスで待ち合わせをした。A君は、佐藤君が押し付けた事務仕事で少し遅れてしまい、B君が先に着いていた。
駐車場に車を入れると、窓際に携帯をいじるB君を見つけたので、近寄って窓を叩こうとしたら、あの女がB君に寄り添うようにベッタリくっついてA君を見ていた。
A君はダッシュで車に戻り、仕事が片付かないから行けないとメールをして逃げ帰った。

どっかの現場で何か憑いてきたんでしょうか?と言うA君。
佐藤君は、それはどうかな?と思っていたらしい。仕事でお持ち帰りするのは日常茶飯事だが、それだと「Bは私のもの」と言ったのはおかしいと。
取り合えず、あまりにもA君が心配するので、今回だけ&俺が見えることは他言無用との条件で、B君を見てみると約束したそうです。

翌日、B君の現場には連絡を入れて別の人を行かせ、B君を自分の現場に呼んだ佐藤君。
B君とは、会社では何度もすれ違ってはいる。とり憑いてるならすぐ分かる。分からないということは、完全に憑依して入ってることになる。
花火事件の時のように、憑依してその人を殺そうという訳では無さそうだか、気に入って出て行く気は全くないだろうなぁ。まあ取り合えず話してみるか、と思った佐藤君は、B君に、目を閉じて何も考えるな、と言ったそうです。
何をされてるのか分からないB君と、頼むから言うとおりにしてと言うA君。

佐藤君がB君の中の女に話掛けると、本当に映画のように、B君の口を借りて話し出したようです。A君は唖然。
女がB君に憑依したのは3年前。自転車に乗っていた女は、交通事故で亡くなった。まだ救急車が到着する前、介抱してくれている人達の群れの隙間から、野次馬していたB君と目が合ったんだそうです。
なぜそこで見てるの?助けてくれないの?死に際にそう思った女は、死後B君に憑依したようで、このまま少しずつ人格を壊して自分のものにしようとしていたみたい。

B君の部屋が汚いのも女の影響。A君が現れたことでB君の心が戻りかけたので、女はA君をB君から遠ざけようとしていたそうです。
佐藤君がB君を何となく気に入らなかったのは、この女が憑依していたせいだったようですね。

このままだと、いずれB君は壊れてしまうし、そのあとは恐らくA君に行く。会社付きの霊能者に取ってもらわないとダメだね、と話を通して世話してあげたそうです。

結局、その後A、B君は会社を辞めてしまったのですが、一応女は霊能者が祓ってくれたようです。
霊にとり憑かれたり憑依されたりは、心霊スポットでなくても稀にあるそうです。見えない我々には怖い話ですよね。


投稿者:TR