レッカーの仕事、スーパーエースの話21です。
ついに○囲み数字がなくなってしまいましたね(笑)何だかんだ結構書いてんだなぁと、他人事のように思ってしまいました。

それはさておきまして、今回もフトン屋時代の話なんですが、当時の彼女ミキちゃんと某温泉宿に旅行に行った時の話。

関東北部の某有名温泉地に1泊2日の予定で出掛けた2人。車で2、3時間なので、お菓子片手にドライブを楽しんでいたようです。
初秋の空は天気も良く、絶好の旅行日和のはずでした。

もう少しで宿に着くという頃、車は川沿いの道に出た。川は浅い渓流のようで、石や大きめの岩を縫って流れるせせらぎが聞きたくて、ミキちゃんが窓を開けました。
サラサラと流れていく音。「気持ちいいね~」と自然を満喫している最中、どこからか男の人の歌声が聞こえてくる。
歌と言っても、現代のロックやポップス、演歌などではなく、昔風な能楽のような歌。
声は少しずつ大きくなり、やがて鼓や笛の音も聞こえ始めたようです。

「伝統芸能かな?」と聞き耳を立てるミキちゃんと、ちょっと眉間にシワを寄せて窓を閉める佐藤君。
佐藤君の行動で、「あぁ、そゆことね」と理解したミキちゃん。彼女には姿は見えなかったらしいのですが、佐藤君が音の先を見ると、川の中洲に赤の敷物が敷かれ、その上で能?なのか何なのかを演奏する4人の姿を見たそうです。踊っている男はお爺さんみたいなお面をしていた。古い時代の、恐らく戦国時代くらいの人じゃないかなぁと。

この時佐藤君は、この人達はミキちゃんにこれを聞かせてる、と分かっていたみたい。理由までは分からなかったようですが。
ただ、あえて怖い思いをさせることもないと思い、ミキちゃんには黙っていたそうです。

何とも言えない漠然とした不安をかなえながらも、2人は無事に宿にたどり着きました。

宿は、情緒溢れる古くも新しい建物で、ミキちゃんのテンションはMAX、佐藤君も満足だったようです。
早速浴衣に着替えて温泉に入り、夕陽が赤くなる頃に宿を出て川沿いを散歩、陽が落ちる頃には温泉街の土産物屋を見て回りと、理想的なデートを楽しんだ2人は、食事の時間だからと宿に戻りました。

初秋とはいえ、昼間はまだ夏の暑さだったのに、山間部ということもあり陽が落ちると肌寒くもある。
窓を開けると虫の音も聞こえ、都会の喧騒を忘れて本当に来て良かったと思う。
食事を終えて、2度目の温泉に浸かり酒も入ると、運転に加えて日頃の疲れも出たのでしょう、佐藤君は気づかずに眠ってしまいました。

何かの物音でハッと目が覚めた佐藤君。辺りは真っ暗、携帯で時間を確認するとまさに丑三つ時。横を見ると、ミキちゃんがいない。
飛び起きて電気を着けるが、どこにもいない。
と、外から音が聞こえる。能楽のような男の歌声と鼓や笛の音。昼間聞いたあの音。
「ヤバイ!」と部屋を飛び出した佐藤君は、非常灯だけになった廊下を裸足で走った。

階段を駆け降り、人気のないフロントに差し掛かった時、今にも外に出ようとするミキちゃんを見つけた。
夢遊病のような面持ちでフラフラと音に誘われて歩いている彼女を、まるでラグビーのタックルのように倒れ込みながらやっと静止させたようです。

目の前には玄関の自動ドア。旅館の自動ドアは時間で電気が落とされて、それ以降は横の鉄のドアから出入りするようになっているので、センサーに触れてもドアは開きはしなかった。
目の前の暗闇に、ガラス戸一枚挟んで昼間見た能を舞う4人がいる。
ゾクっとするような、一瞬で温度が下がったような感覚がした。自動ドアが開いていたらヤバかったかも、と佐藤君。

ミキちゃんは、気を失ったようにその場に倒れたまま。佐藤君はゆっくり上半身を起こすと、4人を睨んだそうです。
いつの間にか音楽を奏でるのを止めて、佐藤君を見つめる4人。
すると、お爺さんの面を着けた男がゆっくりと面を外した。ミイラのような乾燥した肌と髪の毛、目玉は無く真っ黒な穴が2つ。

その男が、何かを言っているが、昔風な言葉と言い方で何を言っているのかよく分からない。が、何となく「殿様がそちらの女を側室に迎えたいと言うので迎えに来た」的な感じだったようです。
「この子は俺の彼女で、アンタも殿様も死んでるから一緒には行けない」と佐藤君が言うと、納得しない4人はゆっくりと近づいてきた。
ガラス戸を挟んで、手を伸ばせば届く距離まで近づいた時、背後で「お客様、どうされました!?」と旅館の人の声がした。
ビックリして振り返った佐藤君。旅館の人は怪訝な顔つき。もう一度振り替えると、4人の姿はなかったそうです。
取り合えず、彼女が酔って外に行こうとしたから止めたと嘘をつき、ミキちゃんを担いで部屋に戻りました。

翌日、帰る前に土地の神社に寄り道し、神主さんにそれとなく聞いてみると、詳しくは分からないが、この土地には色々と曰もあるから、と言われたようです。祝詞をあげてもらい、帰路に着きました。

もしかするとまだ来るかも、と思った佐藤君は、念のために知り合いの霊能者にお願いして、その日のうちにミキちゃんをお祓いしてもらったそうです。
ミキちゃんは、昨夜のことは全く覚えていないのですが、佐藤君が真剣な時はヤバイ時だというのは分かるらしく、黙って従っていたようですね。

その夜、佐藤君の夢の中に例の4人が現れた。
自分達は、某有名武将に仕える○○家の家臣であり、当主の△△は婚姻する前に戦で亡くなってしまった。せめて△△が見初めた女を嫁にと思い迎えに来たのに、なぜ邪魔をするのか!と、えらい怒られたようです(笑)
「だから、あの子は俺の彼女で、生きてるんだから死人には嫁げない!」と言い合いをしたらしいですが、結局の所はお祓いされてしまって、ミキちゃんが全く見えなくなってる状態みたいで、諦めて帰っていったそうです。
が、もしかすると、ミキちゃんがまたその温泉地に行ってしまうと、見つかって同じようになってしまう可能性はあるとのことで、今後あの土地には行かないように、と忠告したらしいです。
そんなんで行けなくなるのは可哀想ですが、仕方ないんですかね?命取られるよりはいいのかな。


投稿者:TR