レッカーの仕事、スーパーエースの話23です。

今回は、フトン屋さん時代中期頃の話です。

佐藤君がいた頃は、例えば現場にあるものを処分して欲しいと言われた場合、所有権が会社に一度移り、その後会社の責任で処分することになるそうです。もちろん書類にサインは貰うそうですが。

処分と言っても、中にはまだ新しかったり、全然使えるものもあるようで、暗黙の了解として、現場にいた人間が貰っていくことが多々あったようです。酷い会社だと、そのままリサイクルショップに売り渡すとかもあったみたいです。
現在はどうか分かりませんが。

俺的には、例え新品同様でも遠慮したいところですが(笑)
お察しの通り、某現場から物を貰っていった人が色々あり、見える上司に泣きついたようで、それが佐藤君に回ってきた訳です。


ある現場を任されていたAさん。そこは、一部報道でも取り上げられた現場でした。賃貸マンションの一室で、嫁さんの兄が妹家族を包丁で惨殺した事件のあった部屋。
旦那さん、妹(嫁さん)、小学1年生の子供が被害に遭い、壁や床に血飛沫が飛び散りまくり、とにかく生々しい。
Aさんが作業に入るときに、最終確認で来ていた刑事さんに「慣れてるだろうけど、中凄いから覚悟して入んなよ」と言われたらしい。それくらい、凄惨な現場でした。

腐敗等の大変さはなかったものの、直後(といっても1週間以上は経っている)の現場は違う意味での大変さがある。
それでもベテランのAさんは難なく仕事をこなして、予定よりも早く作業を終えられそうだった。現場が居間と廊下に限定されていたのも救いだったとか。

一通り部屋が綺麗になると、大家と被害者の親との立ち会いで、色々と確認してもらうことになります。その時に、家財道具等の処分を決めて貰う訳ですが、この時は一部のもの(形見的なもの)以外は、引き取れないし全部処分して下さいとのことで、サインを貰ったそうです。

そうなると、現場にいる人間が、これもらっていい?と始まるんだそうです。
欲しいものは会社のバンに載せ、廃棄するものはトラックに載せとやっているうちに、普段はあまりそういうことをしないAさんが、あるものを見つけました。
子供部屋から運び出された学習机でした。

Aさんには小学2年生になる息子がいました。
家が狭いし高いからという理由で、子供に学習机を買っていなかったのですが、子供からはねだられていたみたい。
子供部屋は事件現場とは関係なく、荒らされてもいないし血も飛んでいない。まして1年生の子供の机で、新品同様の綺麗さ。
本来なら買ってあげるべきなのも分かっていたAさんですが、勿体ない気持ちも手伝ってしまい、その机を貰っていくことにしたそうです。

その夜、机を見たAさんの子供(以下B君)は大喜び。奥さんも、どうしたの?と言うが、本当のことは言えないので、知り合いのリサイクルショップから安く譲ってもらったということにしたそうです。

ところがそれから数日後のこと。B君が、机に座っていると誰かが足を引っ張ると言い出した。
奥さんは、最初は気のせいよと笑っていたのですが、いいから座ってみて!とB君があまりに真剣なので、仕方なしに座ってみたそうです。
数分座り、何もないじゃない、と言いかけた時、確かに誰かに足を掴まれた。
ビックリして椅子から転げ落ち、はっと机の下を見ると、何か影のようなものが動いた気がしたらしい。
後で冷静になってみると、掴んだのは多分子供だと思う、と。手の大きさが、B君と大差ない感じだったようです。

恐くなった奥さんは、Aさんにこれを話しました。ギクッとしたAさんでしたが、それでも本当のことは言えずにいたようですね。

さらに数日後、B君が、今度は学校のノートがおかしいと言い出した。新しいページなのに、誰かが何か書いて消してると。
言っていることの意味が分からなかった奥さんは、ノート貸してごらん?とノートを見てみた。
すると、確かに新しいページが凸凹している。ただ、誰かが書いたのを消したのではなく、要は筆圧。
下敷きをしないで書くとこうなるのよ、言い聞かせると、B君はさらに別のノートを取り出しました。

そのノートは無地のいわゆる自由帳。それも、先日買ったばかりの新品。
「このノート使ってないのに同じになってる」と、どや顔でノートを差し出すB君。
奥さんは、自由帳を手にすると、表紙をめくってみた。
すると、確かに筆圧らしい線が入っている。この上で何か書いてない?と聞くと、間違いなく書いてないとB君。
その時、あることに気づいた奥さんは、おもむろにB君の筆箱から鉛筆を取り出しました。いい?見ててね、とB君に言うと、自由帳の最初のページを塗りつぶし出しました。

左上から、鉛筆が白紙を黒く塗りつぶしていく。すると、何か文字が浮かび上がりだした。
やっぱり、と思った奥さん。B君はじっとそれを見ている。
わ…た…段々と黒くなっていくノートに文字が浮かんでいく。とても大人の文字とは思えない、大きさが不揃いで幼稚なひらがな。確実に子供の書いた文字。
塗りつぶすにつれて、顔が険しくなる。そして、最後まで文字を見ることなく、B君を連れて家を飛び出した奥さん。

Aさんに、発狂寸前の奥さんから電話が掛かってきたのは、夕方でした。今すぐ○○のファミレスに来て!とのことで、訳の分からぬまま言われた場所に向かったAさん。

ファミレスでは、B君はご機嫌でしたが、奥さんはうつ向いたまま、少し震えているようでした。
何かあったのか?とAさんが言うと、「何かあったじゃない!あの机、ホントはどこから持ってきたの!」と、周りのお客さんに聞こえるくらいの声で怒鳴られたそうです。
さらに、ここで待ってるから、家に帰ってあの机の上のノート見てきて、全部分かるから。と言われたAさん。
じゃあ分かった、見てくるからここにいろよ、と自宅に向かいました。

自宅は電気もテレビもつけっぱなし。かなり慌ててて飛び出したんでしょう。
取り合えず、言われた通りB君の部屋を覗く。机の上に、投げ捨てられたように置いてあるノートと芯の折れた鉛筆。
Aさんは、ノートを手に取り表紙をめくりました。鉛筆で黒く塗りつぶしたページには、

「わたしのつくえかえし」

と文字が浮かび上がっていました。恐らく、最後まで塗りつぶしたら、「て」の文字が浮かぶのでしょう。

全身が総毛立ったAさんは、ノートを投げ捨ててファミレスに戻り、やっと本当のことを奥さんに話しました。物凄い怒られたAさん、次に何か持って帰って来たら離婚だとまで言われたようです。
Aさんは、その場で例の上司に連絡を入れました。すると上司の方は笑いながら、取り合えず人をやるから、机を会社に持ってこい、と言ってくれたようでした。

しばらくファミレスで待っていると、見慣れたロゴのバンが駐車場に入って来た。降りてきたのは佐藤君でした。
佐藤君とAさんは、特に面識がある訳ではなかったそうです。勿論、会社で見かけるくらいはあったようですが。

バンでAさんの自宅に向かう途中で概要を聞いた佐藤君は、その時点で机と女の子が見えていたようです。
コンビニに寄り、線香とお菓子とオレンジジュースを買って、Aさん宅に入りました。
霊能者呼ばないの?と言うAさんに、「ああ、大丈夫すよ」と軽く返す佐藤君。

件の机を見ると、すぐに下を覗きこむ。そこには、女の子が体育座りで息を潜めていたそうです。
多分この子、両親が殺された時、ずっとここに隠れてたんだね。でも見つかっちゃった。佐藤君はそうつぶやくと、線香を焚いて、お菓子とオレンジジュースを机の上に置くと、女の子と話したそうです。

「この机が大のお気に入りだったんですって」佐藤君はAさんにそう言うと、落ちていた自由帳を拾い上げ、ページをめくりました。
わたしのつくえかえし…自分のボールペンでその後を優しく塗ると、「て」の文字が浮かんだ。
「どいて欲しくて、奥さんとB君?って言うのかな?足を引っ張ったって言ってますよ」
Aさんは、佐藤君に自分の子供の名前を教えていなかったのですが、佐藤君が女の子の幽霊からB君だと聞いたと分かって、完全に信じてくれたようでした。
返していいですよね?と佐藤君が言うと、何度も首を縦に振るAさん。
「返してくれるって。よかったね」
佐藤君は机の下の何もないスペースに向かって言いました。

その後、机は翌日に会社の霊能者さんにお願いしてお焚き上げして、女の子に返したそうです。
Aさんは、B君にちゃんと新しい机を買ってあげたとのことです。

佐藤君いわく、大切にしていた物には魂が宿るから、ホントに大切にしていた物は形見としてでも取らないで、本人と一緒に焼いてあげた方がいいんですって。
どうしても形見がほしい時は、あまり思い入れてない物で。



投稿者:TR
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