レッカーの仕事、スーパーエースの話28です。

今回は、佐藤君21歳。土建屋さん時代ですね。
会社の先輩で渓流釣りが好きな人がいて、その人の計画で会社の夏休みに北関東の山の中に釣りに行った時の話。
若手で仲の良かった、佐藤君含む5名が参加。佐藤君自身は渓流釣りというか、釣り自体初めての経験で、かなり楽しみにしていたようです。
予定期間は3泊4日で、先輩のワンボックスカーに全員が乗り合いました。

高速を降りた車は次第に山の中に。川が見え始めると、先輩の釣り談義が始まりました。とはいえ、何を説明されても全く分からない佐藤君。他のメンバーも、釣りはやったことはあるが渓流は初めてという面子だったことを、この時初めて知った先輩でした。

さすがに全員の面倒を見ていては自分が楽しめないことに気付き、宿に着いたその足で、先輩は宿の旦那さんに何か話をしに行きました。
この宿というのが、山荘というか民宿というか、佐藤君の想像からはかけ離れた建物だったそうです。もっとこう、温泉宿的な旅館だと思っていたらしいのですが、田舎の民家です!みたいな感じ。
後で聞いたところ、この宿は雑誌などには掲載したことがなく、誰かの口利きがないと泊まれない所でした。料理も凄く美味しい知る人ぞ知る名宿なんだそうです。

奥さんに部屋に通され、待つこと数分。先輩が旦那さんと一緒に現れました。
渓流素人の4人を2名ずつに分け、先輩とA君、B君、旦那さんと佐藤君、C君で教えて貰いながら釣りをすることに。

宿から歩きで山を登って、しばらく行くと川が流れる音がし出した。比較的傾斜の緩やかな所から川沿いに降りて、10分ほど上流に向かい歩いた先にそのポイントはありました。
これがまた、絵にかいた様な場所だったそうです。急流が岩の隙間を縫うように流れ、腰ほどの高さの滝があり、その景色が見れただけでも良かったと思うほど。
テンションの上がった一行は、早速準備に入りました。

とは言え時間はもう午後2時過ぎ。山の中で帰ることを考えると、夏場であっても5時には帰路に着かねばならない。
今日はやり方を覚えるつもりで、明日からが本番だからな!と先輩。
佐藤君も、宿の旦那さんに教わりながら毛鉤を垂らし始めました。

ところがこれが、全く釣れない。魚は間違いなくいる。跳ねてるし。でも釣れない。
旦那さんは、毛鉤は難しいからと笑っていました。佐藤君は場所が悪いと、大きな岩を横から登って滝の上のさらに上流へ。
この辺でいいだろうと、教えられたように毛鉤を垂らしました。

と、その時。首筋にチリチリとした嫌な感覚が。誰かに見られているような、嫌な感覚。
振り返るものの何もいない。
気のせいか、と釣りを続けるが、どうも気になって落ち着かなくなった佐藤君は、竿を岩場に固定して、周りを見てみることにしました。

鬱蒼とした木々と蝉の声以外には何も見えないし聞こえない。川沿いに少し歩くと、獣道のような細い道があるのに気がついたので、入ろうかなと思っていると、下流からC君の声がした。
佐藤君を探しているようなので、こっちだと返事をすると、C君がやって来ました。
旦那さんがあまり奥に行くなと言っているので連れ戻しにきたが、何やってんだ?と。

このC君、ちょっと霊感があるようで、佐藤君は何となく分かっていたようです。何か感じない?と聞くと、何か見られてる?と佐藤君と同じ感想。
この獣道の先が怪しくないか?と言っていると、宿の旦那さんがC君を追ってきました。
山の中で迷うと帰れなくなるぞと言う旦那さんに、この奥は何かあるんですか?と聞くと、少し表情を曇らせました。
あまり深いことは言いたくなさそうでしたが、だいぶ昔に集落があって今はもう誰も住んでいない、ということは教えてくれたようです。
とりあえず今日はもう帰ろうと、岩場に固定していた竿を片付けて下流に向かいました。

結局、初日は先輩含めて誰も釣れず、食卓には旦那さんが用意してくれたイワナが並びました。
聞いた通り美味しい料理で大満足の一行は、風呂に入り明日に備えて早めに床についたそうです。

夜中、ふと目が覚めた佐藤君。虫の声がうるさいくらい響いている。時計を見るとまだ0時を回ったところ。
ふうーと深い息を吐き、再び布団に寝転がると、「ニャー」と猫の鳴き声が聞こえた。
あー、この宿猫がいるんだなぁと、ぼんやり思って目を閉じる。「ニャー」「ニャー」外で鳴いている。「ニャー」しつこく鳴く猫の声に、あー、閉め出されて開けて欲しいのかな?と思った佐藤君は、猫を入れてあげるついでにトイレに行こうと起き上がりました。

一行が寝ている部屋は12畳ほどの部屋。障子戸を開けると廊下になっていて、廊下を挟んでガラス戸越しには外が見える作り。戸は開け放され、網戸になっている。
佐藤君は猫の姿を探すが、それらしき姿はない。おかしいな、と思いながらも廊下を歩きトイレに向かう。
用を済ませ、廊下を戻るとまた猫の鳴き声が。網戸を開けて外を見るが、やはり猫の姿はない。
まあいいか、と部屋に戻ると、C君が起きている。どした?トイレか?と言うと、枕元を猫が鳴きながら歩いてうるさくて起きたと。でも、見回しても猫なんかいないからおかしいな、と思っていたら佐藤君が帰って来たそうです。
とりあえず害もなさそうなので、もしかしたら猫の幽霊かもね、と笑って寝直しました。

翌日は、朝早くに起こされ朝食。奥さんのお弁当を渡されると、早速釣りへ。
午前中釣りをするが、先輩以外は全く釣れない。いい加減飽きてきた佐藤君は、弁当を食べるとC君と共謀して例の獣道に行ってみることにしました。

旦那さんの話では、昔は集落があった。つまり建物があるからすぐ分かる、と歩を進める2人。伸びた草や枝をかき分けしばらく歩くと、木々の隙間に建物らしき物を発見したそうです。
ただ、見つけた瞬間佐藤君のセンサーが爆音で反応。ここは危険だと告げている。
ここはヤバイかも知れない、とC君に言ったが、C君が止まらない。ドンドン建物に近づいていく。
あれ?呼ばれちゃったか?とC君を追って何とか肩を掴んだ。だが、その時はもう集落の中の広場みたいな所だった。
おーい、しっかりしろ!と揺すると、やっと我に返ったC君。

周りを見渡すと、古びて潰れかけた藁葺き屋根の家が4、5軒ほど。鬱蒼とした木々に囲まれて昼なのに暗い。広場や道だったであろう場所も草がボウボウ、誰も足を踏み入れていないことがよく分かる。

何か、凄いヤバくない?とC君。見上げた廃屋の屋根に猫がいるが、鳴くでもなく、日向ぼっこでもなく、佐藤君とC君をただ見つめている。

昨日の夜の猫はこれだな、と思った佐藤君。「C、あの家の屋根に、猫何匹いる?」
不意に佐藤君が言うと、C君は不思議そうに1匹と答えました。
佐藤君はその答えを聞くと、合図したら走って逃げるぞ、とつぶやきました。
ゆっくり後ずさると、屋根の上の猫が立ち上がった。
「逃げろ!」佐藤君が叫ぶと同時に、2人は猛ダッシュでその場から逃げ出しました。

来た道を必死で走り、何とか川まで戻れた2人。振り返っても何も追ってきてはいない。訳の分からないC君は、佐藤君を問い詰めました。ヤバイのは何となく分かったけど、何だったんだと。
佐藤君は、ため息をつくと話し出しました。

C君は、昨日の夜中にすでに呼ばれていたっぽい。集落の屋根の上に、C君は猫は1匹だと言ったが、佐藤君には何十匹という猫が見えていた。それも、手足が無かったり目が無かったり、五体満足ではないものばかり。
挙げ句には、一番大きい家(C君が見た猫が乗ってた家)の中にスゲーデカい猫みたいなのがいたと。言うなれば化け猫。

あの集落に足を踏み入れてしまったから、多分今晩も呼びに来るよ?と言う佐藤君。
呼ばれて行ったら、多分死んじゃうか行方不明か、無事に帰ってくることは多分無い。

それを聞いたC君は、体調が悪いということにして先に帰ることにしました。
先輩はじゃあ全員で帰るかと言いましたが、折角だから楽しんで下さいとC君が強く言ったので予定通りにしてもらい、念のためということで佐藤君が一緒に帰ることに。
本音は釣れないから飽きたから、だそうです。

帰りは駅まで旦那さんが車で送ってくれることになり、その車内で聞いてみたそうです。
佐藤君が概要を説明すると、旦那さんは見える人には見えるんだなぁと諦めたように教えてくれたようです。

昭和の中頃まで集落には人が住んでいた。そこは、大きな村から何かの理由で村八分にされた人たちが住んでいて、自給自足で完全に隔離されたような場所だった。
当時このあたりには猫が異様に多く、大きな村は猫で溢れていたが、誰が飼っている訳でもなく、餌も皆があげていたため、自然と増えていた。
ところがある頃から猫が少しずついなくなり始めた。初めは気にもしていなかったが、猫がいなくなるペースが速いことに気づくと同時に、必然的に集落の人間の目撃談も多くなった。
猫のことはともかく、集落の人間が村に来ることが許せない村人たちは、武器を持って集落に乗り込んだ。村人がそこで見たものは、逃げられないように手足を落とされ、木の檻に閉じ込められた何十匹という猫たち。
集落の人間は、食うものに困って猫を食べていた。
これは許されたことではない、と逆上した村人が集落の人間全員を半殺しにして、次に村で見かけたら命はないと脅し、猫を解放して帰った。
ところがそれから一月経たないうちに、助けてくれと集落の人間が村にやって来た。袋叩きだと集まった村人に、集落の人間がこう言った。
集落は化け猫にやられて全滅した。俺だけかま生き残った。もう二度と猫は食べないし死ぬまで供養し続けるから助けてくれと。
それを聞いた村人は、何が化け猫か!と。猫など食べて頭がおかしくなったんだろう、仮に本当だとしても身から出た錆、いい気味だと言って追い返した。
それからしばらくして、集落の話も忘れた頃、村の子供が可愛がっていた猫を追って森の中に入っていってしまった。大人達はこれは大変と後を追ったが、子供は見つからない。山狩りのように総動員で山を探して、日が落ちる頃に集落で子供を見つけた。
ただし、子供は内臓を食われていてすでに死んでいた。周りには集落の人間であろう白骨が転がり、頭蓋骨の数で追い返した人間も含めて全員分があった。
そうなってくると、誰が子供を殺して内臓を食べたのか?浮かんだのは化け猫の文字。
村人は逃げ出し、集落までの道を塞いで二度と近づかないようにした。

あんた、化け猫見たんか?と旦那さんに言われた佐藤君は、ひきつった笑顔を見せて、多分と答えたそうです。
まさかそんな壮絶な場所だったとは思っていなかったようですね。帰らなかったらCは絶対あの集落で死んで見つかったと思うよ。俺もかも…と佐藤君は言ってました。
その後、とりあえず何事もないようですが、C君はやはり二度とあの近辺には行かない方がいいと念を押したそうです。

昔の日本はいろんな意味で恐いと、身をもって体験した佐藤君でした。


投稿者:TR
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