3年位前、ニューヨークの小劇場で芝居に出ていた時の話。自分の役は、道化師の姿をした悪霊の役だった。その悪霊が、女に憑いて人を殺させると云うのがその寸劇の筋であった。
リハーサルも順調に進んで、自分も役に没頭し非常に充実した気分で臨んでいたが、本番が近くなるにつれ身体の具合が段々悪くなっていった。風邪をひきかけているのか?何なのか?身体が重くて仕方がなく、初日の日は、心は張り切っていたいのに起きる事が出来ず、昼の3時まで寝ていて、それから身体を引き摺る様にして劇場まで行った。

その芝居は、評判が非常に良かった。特に自分の演技への評価が高く、帰り際に観客が待ち受けていて、自分が演じた悪霊がとても気味が悪かったと目を輝かせて言った。勿論、役者にとってこれは褒め言葉であるから、ちょっとスターになった気分で意気揚々と地下鉄で家に帰った。しかし、気分とは裏腹に身体が思かった。夏風邪をこじらしかけているのかと思っていた。
翌日も夜、寝たというのに身体が怠くて起きられず又、3時まで寝て劇場に赴いた。
2日目は、初日よりも身体が重く、本番前に本当に口から出るのではないかと思う程の吐き気をもようした。舞台で吐いたらどうしようと思って不安だった。
2日目の評判もすこぶる良く、賞賛を受けながらの帰宅となったが、何かがおかしいのを感じ取っていた。そこで、家で1人瞑想をし経を読んだ。
最終日、ある劇作家が自分の演じた悪霊が非常に怖かったので、自分と会って話をしたいと言って来た。非常に嬉しかった。身体は、2日目よりほんの少し軽かった。
それから、スタッフと打ち上げパーティーをやって帰り、寝た。そして、夢を見た。デブでハゲの白人の男が横を向いて只、座っていた。何故だか、自分はそいつが自分に憑いた悪霊だと知っていた。映画「エクソシスト」でもお馴染みだが、カソリックの悪魔祓いには決まり文句がある。それが自分の口からスラスラと出た。「主、イエスキリストのみ名において云々」と言うやつ。今、思うとあんなセリフが、咬まずに言えたのが不思議。白人男はふてぶてしく「あ~、分かったよ」という感じで薄笑いを浮かべていた。
その夢の後、身体は徐々に回復した。
名声とは代価を払わずにはやって来ないとしみじみ理解出来た出来事だった。


投稿者:とんとん