レッカーの仕事、スーパーエースの話29です。

梅雨っぽい陽気になりましたので、雨の日の話を。佐藤君14才、中学時代の話ですね。

この年はいつになく冷夏で、なかなか梅雨が開けなかったそうです。
6月か7月か忘れたようですが、台風が近づき梅雨前線が活発になって大雨になった日、佐藤君と悪友の酒井君他2名は、危ないのは百も承知で近くの川の増水を見に出掛けました。

3日~4日降り続いた雨で、想像以上の増水っぷりに4人の中学生は大はしゃぎ。
学校帰りの制服のまま、水際ギリギリまで行って遊んでいたそうです。
しばらくワーキャーやっていると、巡回中のお巡りさんに見つかって怒られ、渋々帰宅することに。
土手の道を歩き橋のたもとの十字路に着くと、そこでさよなら。佐藤君と酒井君は橋を渡って、他2名は逆方向へ。
びしょびしょの靴が変な音を立て、濡れたYシャツが不快になってきた頃、別の不快感が佐藤君を襲いました。

橋の中腹に来た頃、チリーンという鈴の音がどこからともなく聞こえてくる。
ふと橋から川を見下ろすと、今まで遊んでいた対岸、つまり自分達の進行方向の川縁に、親子であろう人影があったそうです。

細身の白い服を着たお母さんは傘で上半身が見えない。幼稚園くらいの子供は黄色い雨ガッパを着てフードを深々と被り、やはり顔は見えない。
その姿を見た佐藤君は、あれはヤバイとすぐに思ったようです。

チリーン、再び響く鈴の音。すると隣にいた酒井君が「何か鈴みたいな音しねえ?」と言い出した。
辺りをキョロキョロして橋の下も覗いているが、親子の存在は見えていない様子。
チリーン、チリーン…心なしか鈴の音が早くなった。
あーヤバイ、酒井呼ばれてる。そう思った佐藤君は「何も聞こえないよ。それより○○のコロッケ食いに行こうぜー!」と酒井君の手を引っ張ってその場を離れました。

翌日も雨。台風が接近して風もあり、通勤通学には厳しい天候。
昨日のこともあり、佐藤君は川沿いではないコースで帰ろうと酒井君を誘いました。
すると酒井君は「いや俺、川に用事があんだよ」と言い出したそうです。「川に用事って何だよ」と返すと、「えっと、あれ?何だっけ?大事な用事があったはずなんだけど」と、完全に呼ばれちゃってる感じが。

何とか説得して別のコースで帰宅することにしたものの、ちょっとまずいなと思った佐藤君。
酒井君が家に入るのを見届けると、その足で川に向かいました。

橋のたもとに来ると、鈴の音が聞こえる。「いる」と確信した佐藤君は道を外れて土手を降り、親子の元へ。
一歩近づくにつれ、鳥肌が立つのが分かる。これはちょっと、思ったよりヤバイ人達だったか?と後悔しながらも、親子の真後ろに立ったそうです。

「あのさあ、俺の友達呼ぶの止めてくれる?」佐藤君が話かけると、鈴の音が止まった。鈴は、子供の肩からたすき掛けしたバッグのジッパーに付いているのが分かった。
「聞いてますか?」
呼び掛けに答えはない。微動だにしない親子。
「どこで死んだの?死んだの分かってるよねえ?じゃなきゃ呼ばないもんね。」
佐藤君がそう言うと、母親がゆっくりと右手を動かした。袖から出ている手首から先は変色して紫色。
やがて手の動きが止まる。橋の向こう、上流を指差していた。
「とにかくさ、誰か呼んでも何もならないから。」
佐藤君がそう言うと、子供がクスクス笑いだした。

その瞬間、佐藤君の中でハッキリ分かったそうです。
この2人、親子じゃない。凶元はこの子供で、この女の人は呼ばれて入水自殺した赤の他人。それをこの子供が母親代わりに連れ回してる、と。
この子が欲しいのは「家族」。父、母、兄、姉、弟、妹、祖父、祖母…何人引っ張る気か分からないが、酒井君は兄として呼ばれているのは間違いない。

佐藤君は急いで家に帰り、自分の部屋の机の引き出しを漁ると、古い御守りを取りだし酒井君の家に向かいました。
家に上げてもらった佐藤君は、もう隠しても仕方ないと、酒井君に事の一部始終を話したそうです。
佐藤君のことは分かっている酒井君。「マジかー、俺死んじゃう?」と涙目。
御守りを取りだし酒井君に手渡すと、寝るとき絶対に離すな、ガムテープかなんかで寝巻きに張っとけ!と言いました。

この御守り、実は幼少期の佐藤君のためにお婆さんが作ったもので、要は簡易結界なんだそうです。昔の佐藤君は幽霊に影響されて体調を壊しやすかったので、肌身離さず持ってたのだとか。
あの子供は相当強いから、効果がどこまであるか分からないけど、無いよりはマシということらしいです。
「いつまでだよ!?」と言う酒井君。佐藤君は、あれが諦めるか、違う兄を見つけるまで、と言いました。

翌日は雨がやっと上がるも曇り空。その翌日は晴れ間が見えました。
酒井君に聞くと、取り合えず何もない。でも御守りは寝巻きの胸のポケットに入れてガムテープで貼ってあると。
川に行ってみても、あの2人の姿はない。いなくなった?そんな簡単に諦めるかなあ?と不安に思った佐藤君。

翌日は金曜日。夕方から予報通りに雨。
家に帰り、夕食後電話で酒井君と話していた時。電話口から鈴の音が聞こえた。
ビクッとする佐藤君。「聞こえたか?」と聞くと、「何が?」という酒井君。
「今から行くから入れてくれ!」と言うと電話を切りダッシュで酒井君の家に向かったそうです。

酒井君の家は自営業。まだ店の営業時間で店先は明るい。すぐ横の柵戸をあけて階段を上ると住居の玄関がある。
店先では聞こえなかった鈴の音が、玄関では聞こえる。
完全に来てんなこれは。ここんとこいなかった理由は何だよ?と考えた時、出た答えは「雨」。

部屋に上げてもらった佐藤君は、窓から外を眺めた。酒井君の部屋から見える裏道に、2人の人影。傘をさした細身の女と黄色い雨ガッパの子供。間違いない。
佐藤君の横から窓を覗く酒井君。驚いたように「黄色いカッパの子供、見えるんですけど」と言ったそうです。女は見えないみたい。
佐藤君は炊いていない米をくれ、と酒井君に持ってこさせると、窓のサンに目一杯敷き詰めた。ドアのとこには小皿2枚に盛り米をして左右に置いた。
雨の日は、絶対にこうしとけ!雨が止んだり色がおかしくなったりしたら交換しろよ!と一通りやりきって帰ろうとすると、頼むから泊まってけと。

仕方なしにその日は泊まることに。
夜中ずっと鈴の音が鳴り続け、風ではなく窓がカタカタ音を立てていたそうです。
鍵のかかった窓を開けようとする感じの音だった。間違いなくカーテン開けたら見えたと思うけど、酒井もそんな勇気なかった(笑)と笑って話す佐藤君でした。

その後、酒井君は言いつけを守って、いつからか鈴の音も聞こえなくなったそうです。諦めたのか、他の誰かが犠牲になってしまったのかは分からないようですが。

今でも、酒井君は御守り持ってます。佐藤君がそのままあげたそうです。
花火事件のことを書いた折りに、TRも酒井君とは知り合いになりまして、酒井君の経営する店に(まだご両親も健在で店を手伝ってます)お邪魔したんですが、店の前に盛り塩ではなく盛り米がしてありました。
この話は、その時に2人から聞いた話です。


投稿者:TR
投稿者のTwitter:@tr_sato