レッカーの仕事、スーパーエースの話31です。

今回は佐藤君24歳頃って言ってたんで、布団屋さん時代ですね。とはいっても仕事のことではなく、プライベートでの出来事です。

7月に入ってすぐ、丁度今頃の時期。土建屋さん時代の上司でそれなりにお世話になった方が亡くなりました。
原因は、その時は自殺と聞かされていたそうです。ドアノブでの首吊りだったようなのですが、人柄を知っている佐藤君としては、とても自殺なんかする人じゃなかったと、大変なショックを受けたようです。

翌日お通夜があり、当然佐藤君も参列することに。駐車場や玄関口で会った元の同僚や上司に挨拶し、取り合えず話は後でいいから焼香してこいと言われて、斎場に入りました。
斎場に入るとこれまた大勢の人が。ご親族以外にも、取引先など会社関係者も非常に多く、故人の人柄の良さが伺えました。

祭壇の遺影を見ると、仕事していた当時を思い出して目頭が熱くなった佐藤君。さぞ残された奥さんや子供さんは大変だろうと思い、ご遺族の席を見る。
祭壇に一番近い席にうなだれた奥さんらしき人が。横には幼稚園の息子さん。
そして、その真後ろに亡くなった故人のAさんが佇んでいました。

故人が自分の通夜、葬式にいることはよくあるそうで(笑)佐藤君が「Aさんやっぱり奥さんと子供さんが心配なんだな、何で自殺なんか…」と思っていると、Aさんが何か言っているのが分かったようです。ただ、声が小さくて聞き取れない。
焼香まであと3人ほど。祭壇の前が一番距離が近いので、あそこまで行けば聞こえるかな、と思い聞き耳を立てていました。

やがて自分の番。遺影とご遺族(とAさん本人)に深々と礼をして、焼香を摘まむ。お経で聞き取りにくいが、よく聞くとこう言っていたそうです。

「何で殺した」

眉間にシワがよる佐藤君。ご遺族に再度礼をして顔をあげた佐藤君の目は、奥さんと奥さんに耳打ちするように「何で殺した」と言い続けるAさんしか映っていませんでした。
後ろにいる人に咳払いをされて、ようやく我に返った佐藤君は、そそくさと部屋を出ました。

何か心に嫌なものが残ってしまった佐藤君。本人が言っているんだから間違いない。奥さんがAさんを殺したようです。
でも、それを誰に言う?そもそも信じないし警察だって取り合ってくれない。ご遺族にも迷惑がかかるかも知れない。
これは自分の胸にしまっておくしかないのかな、と思って下を向いていると、元の同僚や上司がやってきた。
「そんなに落ち込むな!まあAさんには世話になっただろうからな、積もる話もあるし2階でちょっと飲もう」と言われました。いや、それで落ち込んでんじゃないし、酒飲めないんだけど…と言える訳もなく、半ば強引に連行された佐藤君。

斎場の2階は、参列された方々が多少飲み食い出来るようになっていて、その一角に佐藤君含めて計8名程で着席。
やりきれなさから、飲めないビールで乾杯して一気に飲み干しました。
「お前、今何やってんだ」から始まるお決まりの現状報告会。答えていると、ビールのせいで眠いわ気持ち悪いわで、ちょっとトイレにと言ってふらふらしながら席を立つ。
すると、元の同僚Bが「一緒に行ってやる。お前飲めないの忘れてたよ(笑)」と言ってくれました。

でも実はB君、佐藤君に聞きたいことがありました。B君もまた、霊感あり体質。佐藤君程ではないようですが、普通に幽霊みたり声が聞こえたりはするそうで。
「佐藤、俺変な声聞いたんだけどさ」
その言葉に反応する佐藤君。
「何を聞いた?」
そう聞き返すと、よく分からないけど殺した?とか言ってなかったか?と。
少し迷った佐藤君。Aさんが後ろに立ってるのは見えたか?と聞くと、それは見えなかったけど、いる気配はした。お前なら何か分かっただろ?教えてくれないか、と言うB君。

色々と葛藤した佐藤君でしたが、一人で抱えるよりは、と思い教えました。
Aさんが、奥さんに耳打ちするように「何で殺した」とずっと言っていた。多分Aさんは奥さんに殺されたと思う。
B君は無言でした。佐藤君と同じように、警察に言っても取り合ってくれないと思ったのでしょう。証拠はないのだから。

席に戻り、今度はジュースで気を取り直し。テーブルの寿司をつまんでいると、ご遺族の方々が上がってきた。
本日はお忙しい中…と挨拶があり、親戚の方々は奥の方へ。土建屋さんの社長やらお偉いさんは奥さんと話している。Aさんの幽霊は、片時も奥さんの横から離れずに耳打ちし続けていたようです。
「まだいる?Aさん」B君が佐藤君に聞くと、佐藤君は「あれはずっとあのままだよ」と答えたそうです。

恐らく佐藤君がAさんに話しかけても、全く聞く耳を持たないと思う。裏切られて、何で自分が殺されたのか納得できなくて、やがてその気持ちが憎悪に変わって行くまで、あのまま耳元で囁き続けるんだろうね、と佐藤君。

Aさんの幽霊は思いが強いからか、色んな人が声を聞いたり存在を感じたりしていたようです。
時々「アレ?」みたいに奥さんの方を振り向いたり、何か聞こえてキョロキョロしてる人がいたみたい。

通夜、葬式ではこういうことはホントによくあるんだそうです。
何も言わず自分の遺影を見つめてたり、家族に謝ってたり。葬儀屋さんもしょっちゅう見ると言ってたそうですよ。

これはB君から聞いた後日談なのですが、奥さんはその年の年末に自殺しました。それも、Aさんと全く同じ形で見つかったそうです。奥さんは、少し前から言動がおかしくなっていて、子供が小さいので親戚の方が面倒見ようかと言っていた矢先だったようです。

発見したのは息子さんで、これは更にまた上司からの又聞きなので定かではないのですが、息子さんが警察にどうやって見つけたの?と聞かれて「パパが教えてくれた」と言ったらしいです。
Aさんが奥さんを精神的に追いやったのか、それとも奥さんの罪悪感なのか。息子さんにはずーっとお父さんが見えていたのかも知れませんね。



投稿者:TR