レッカーの仕事、スーパーエースの話32です。

今回の話はほんの数年前。
フリーター時代に仲の良かったA君が、交通事故で足を折って入院しました。

複雑骨折でベッドから動けなかったA君でしたが、だいぶ回復して松葉づえで歩けるようになると、暇を持て余して友達に電話を掛けまくり、見舞いに来てくれと催促。
佐藤君もそのうちの1人だった訳ですね。確かに友達が入院してるから、今度の休みに見舞いに行く的なことを言ってたのは記憶にあります。

その病院は、大きめな総合病院。夜勤明けだった佐藤君がA君の病室に着いたのは、面会時間終了の1時間前でした。
買って行った雑誌やお菓子を手渡すと、事故の詳細やら昔話に花を咲かせる2人。
しばらくするとA君がタバコが吸いたいと言い出した。
とは言っても、院内全面禁煙で喫煙所は外。往復していたら面会時間が終わっちゃいそう。
廊下に出ると、A君はなぜかエレベーターとは反対方向に歩き出す。不思議に思って、外じゃないの?と聞くと、いいトコあんだよ、とA君。
着いていった先は非常階段でした。

辺りを見回して看護士さんがいないのを確認すると、ドアノブの内鍵をひねってドアを開ける。
ひんやりして少し湿度のある空気がまとわりつく。屋内の階段で、電気は点いているが暗く感じる。
A君は、ここ誰も来ないんだよ。下まで降りてらんないよ。と言って階段に腰掛けると、松葉づえを置きポケットからタバコと携帯灰皿を取り出しました。

佐藤君はというと、階段の上の方が気になったようで上り階段の先を見つめていました。と言っても、コの字型の階段なので次の階との中間の踊り場が見えるだけなのですが。

どうした?座れよ、と言うA君に従って隣に腰を降ろす佐藤君。
だが、どうしても何か落ち着かない。A君は、佐藤君が見えたりすることは何となく知っているのですが、幽霊などは信じていないタイプ。
何か感じている佐藤君を見て、何だ幽霊いるのか?と笑っていたようです。

そうこうして、タバコを丁度揉み消した時。上の方からギギーとドアが開く音が響いた。ドゴン、とドアが閉まる音がして、コツ、コツと誰かが階段を下りてくる音が聞こえる。

ヤベエ、看護士かなんかだ!戻ろう!とA君。佐藤君は松葉づえを持ちA君に肩を貸すと、入って来たドアから病室の方へ戻りました。

また来るわ、と言ってその日はそのまま帰った佐藤君。
震え声のA君から電話があったのは、それから3日後のことでした。

電話の内容は以下の通り。

佐藤君が見舞いに行った日、夜中寝付けなくて非常階段にタバコを吸いに行った。
すると、ドアが開く音がして、誰かが階段を降りてくる。見つかったらマズイと思い戻ろうとするが、足がその状態なのでモタついて、ドアにたどり着く前に上の階から看護士さんが降りてきて見られてしまった。
だが、特に何か言われる訳でもなく目は合ったもののスルーしてくれた。
しかもその看護士さんは20代くらいで可愛いかった。

翌日、やはり寝付けなくて非常階段でタバコを吸っていると、同じように誰かが降りてくる。時間も同じくらいの時間。
今回は帰ろうとはせず、昨日の看護士さんだったらいいなぁと思い待っていた。
案の定、同じ看護士さん。こんばんわ、と挨拶してみると、少しだけニコッとした…気がした。

さらに翌日、この日の目的はタバコをではなく彼女。同じくらいの時間に非常階段で待っていると、やはり上の階から降りてきた。
こんばんわ、いつも会いますね。巡回ですか?と話し掛けると、やはりニコッとして行ってしまいそうになったので、ダメ元で下でコーヒーでも飲みませんか?とナンパしてみた。
すると、ピタッと足を止めた。おっ?脈アリか?怒るのか?とドキドキしていると、およそ女性の声とは思えないような低く響くエコーがかかったような声で
「Aさん。明日、病室にいきます」
と言われたらしい。A君はその時初めて、何かこの看護士さんヤバい?と思った。
よくよく考えれば、真夜中の非常階段でタバコを吸ってるヤツを注意しないのも、鍵が掛けてある非常階段を巡回するのも、今の声も、自分がどこの病室の誰なのか知ってるのも、全ておかしい。
とにかく、その場は怖くなって返事もせずに急いでベッドに戻った。

朝起きて、様子見に来る担当の看護士さんにそれとなく非常階段の話をしたところ、あの階段は誰も使わないし、屋上から1階まで繋がってるけどフロアごとに鍵が掛けてあるからどこにも出られない。階段側からは鍵開けられないし。と言われた。
じゃああの看護士さんはどこに行ったのか?本当に今日病室に来るのか?と思ったらますます怖くなり、佐藤君に電話したそうです。

佐藤君は、間違いなくあの違和感の正体だな、と思ったようです。冗談で、幽霊信じないんだろ?と言うと、信じるから助けてくれと。
とりあえず、仕事の合間をみて行くからと返事をしました。

佐藤君が病室についたのは夕方の5時すぎ。A君の病室に寄らないで、そのまま非常階段へ。
内鍵を開けてドアを開いた瞬間、ビックリして後退りした佐藤君。
開けた目の前に看護士が立っていた。階段は真っ暗。その中に、瞬きもせず無表情で。
手から離れたドアがゆっくりと閉まっていくその間も、ずっとそのままで。

すると、後ろから「そこ立ち入り禁止ですよ、どちらにおいでですか?」と看護士さんに声をかけられた。
佐藤君は慌てて、迷っちゃって、○号室のAの見舞いに来て…とシドロモドロ。
ああ、それなら、と丁寧に教えてくれた看護士さん。ついでに、ここは非常階段?と聞くと、「そうですけど、使われてないので真っ暗だし危ないですから」と言われたそうです。
確かに今は暗かったけど、前は電気点いてたしAは毎日この階段でタバコを吸ってる。
いつも真っ暗?と聞くと、何だコイツ?みたいな顔をされましたが、「いつもですよ。避難用なので非常時しか使いません。電気も1階にしかスイッチありませんから。」と言われました。

A君の病室に入った佐藤君は、挨拶もそこそこに「非常にマズイ」とA君に言いました。
説明を求めるA君。ついさっき見たことを話しその看護士の特徴を言うと、間違いなく彼女だと。

多分、A君が初めてあの非常階段のドアを開けた時に、すでにあの看護士の幽霊はA君を呼んでいたと思う。
マズかったのはナンパ=誘ったこと。幽霊を誘ったと言うことは、何されてもOK、つまり命持ってっていいよと言ったのと同じ。
救いなのは、最後の言葉に返事をしなかったこと。ファイナルアンサーは保留してるから、これから何かされても言われても、何も返事をしなければ、そのうち諦める。いつかは分からないけど。

佐藤君は泊まれない。面会時間ももうすぐ終わってしまう。看護士の霊はドアのとこでスタンバイしてる。病室に来るのは間違いないが、招き入れなければベッドを囲うカーテンから内側には入れないはず。念のため、ベッドの下に塩と米と酒とを置いて、怖がるA君と、絶対に返事したりすんなよ、つか喋んな!という捨て台詞を残してニヤニヤしながら帰りました。

翌日、仕事の合間をみて再び病室を訪れた佐藤君。A君は、佐藤君を見るなり泣きそうな顔で喋り出したそうです。聞くと、こんなことが…。

佐藤君が帰り、寝てしまえばいいと思い隠し持っていたウイスキー(誰かが見舞いで持ってきた)をストレートで飲んで寝た。
ところが、何時か分からないがパッと目が覚めた。辺りは真っ暗、時計を見ようとしたら体が動かない。
金縛りかよ!と思ってもがいていると、廊下の奥、非常階段のドアが開いて閉まる音が聞こえた。うわ、ヤバい!ともがくが、金縛りは全く解けない。
コツ、コツ、コツと廊下を歩く音が近づいて、ついには部屋の中に入って来た。A君は必死に目を閉じて帰ってください!と心で叫んだようです。
すると、カーテンがカシャカシャと音を立てて揺れ、あの低い響く声で「行きましょう」と言われたそうです。
うわー!ドコヘだよ!勘弁して下さい!と必死に目を閉じて耐えていると、「開けて下さいAさん」と、カーテンがガシャガシャガシャと大きく揺れ出した。
どれくらい経っただろうか、何となく夜明けかな?くらいに部屋がうっすら青く明るくなってきた頃、カーテンの揺れがピタッと止まり、「また来るから」という声がしたと同時に金縛りが解けた。
周りを見て、まだ居ましたとかなったら洒落にならないから、そのまま布団被って誰か来るの待っていたそうです。

佐藤君は笑いながらも、よく頑張ったねと言いました。ただ、追い討ちかけて悪いけど、また来るよ。毎日かも知れないし、いつ来るかは分からないけど。
とにかく、非常階段には絶対に行かないことと、また来ても何も喋んな、と言いながら、ベッドの下に置いてあった塩と米と酒を取り出しました。

酒は変化なさそう。米はちょっと散らばって、塩は濡らしたみたいに溶けていたそうです。
とりあえず、いよいよヤバい時には霊能者紹介してあげるけど、当面は俺が来れる日は来てこのセットしてくから頑張れ!とA君を励ます佐藤君でした。
ちなみに、この状態で退院したとしたら、家まで憑いてくるとのことです。

最終的にどうなったかと言うと、最初の3日は毎日来たようです。段々と1日開き、2日開き、約2週間後退院間近と言う頃、佐藤君がもう大丈夫とOKサインを出したそうです。
看護士の幽霊についても、仲良くなった看護士さんや古そうな看護士さん、お医者さんに聞いても教えてくれなかったみたいなんですが、喫煙所で知り合った長く勤めてる売店のオジサンが教えてくれたらしいです。

15年くらい前までは、あの階段は普通に使われてたよ。看護士が重宝して使ってたけど、電気のスイッチが1階にしかなくて、電気消えてると真っ暗なんだ。でも遠回りするより早いから、みんな暗くても1階くらいなら手探りで行き来してた。
ある日、若い看護士が真っ暗な中を行って、足を滑らせて転げ落ちちゃったんだな。首の骨折って亡くなる事故があったんで、非常時以外使用禁止ってことになったんだよ。
まあ噂では幽霊が出るとかって聞いたこともあるけど、どうだかなあ?

ということらしいです。
目的が分からないだけに怖いですけどね。寂しかったということなんでしょうね。


投稿者:TR