レッカーの仕事、スーパーエースの話36です。

注意:長いです。長いの嫌いな人は読まないで下さい。

夏休み特別企画!!
ということで、今まで佐藤君から色々と聞いた話で、一番書きたかった話を。


「とにかく、あの頃の俺は無知で無謀でバカだったんです」
初めてこの話を聞いたとき、佐藤君はそう言いました。
結果として消えてしまった人の命があり、少なからずそれを自分のせいだと思っている彼の口調は、まるで懺悔のようだったのを覚えています。


なぜあんな場所に行き、なぜあんな面子だったのか。全く思い出せないそうです。
まるで全てが仕組まれていたかのように。なぜ自分達だったのか?霊に対して無敵だと勘違いしていた自分への戒めだったのか?
彼は、今でも後悔している。

18年前。
蝉の声が最盛期を迎える真夏。

夕闇が迫る中、佐藤君はバイクの後部座席に跨がり、あるものを探していました。入り口の目印になるあるモノを。

誰の情報かも分からない、ガセかも知れない話。
「某山の山中に、廃神社がある」
長く放置されたその神社へと続く道はすでに無く、道があった場所の脇にはちいさな地蔵があるらしい。
昔、神社の神主が惨殺された。昔、若い女が強姦されて殺された。神社を見つけると呪われる。神社に奉られているものを触ると必ず死ぬ。
ありがちな噂は後を立たず、でも誰も行ったことがない。

心霊スポット巡りが趣味のような、DQNグループがいた。佐藤君のバイト先の先輩のグループ。
人の気を引くために言いふらした「幽霊が見える、俺といると変なことが起きる」
それに食いついた面子だった。

バイクを運転する大野の肩を、佐藤君が3回叩いた。
「停めて!」
スピードが緩むと、飛び降りて藪に向かって走る。生い茂る草をかき分けると、そこには首の欠け落ちた古い地蔵があった。

バイクの後ろに黒いワンボックスが止まる。中から男が2人、女が2人出て来た。
車の運転をしていた最年長の鈴木が、興奮気味に言った。
「ホントにあったよ!お前スゲーな、何で分かったんだよ!」

黒い靄が藪から涌き出ていた。薄暗くなった山中でもハッキリ分かるほど濃く、禍々しい気配をまとった靄が。
説明する気のない佐藤君は、分かるものは分かる、とだけ言ったそうです。

鈴木の彼女の加奈。大野の彼女の優子。
「えー、こんな藪の中に入るの嫌だ!」そう言ったのはこの2人だった。
鈴木は不機嫌そうに、じゃあ車で待ってろよと言うと、もう1人の田口に懐中電灯持ってこい!と叫んでいた。
田口は、いわゆるパシリ。鈴木と大野にいいように使われている。佐藤君には横柄だったが、軽く流していたみたい。

藪の中を照らす。獣道のような、確かに昔は道があったっぽい。
「ホントに行く?かなりヤバそうだけど」
佐藤君の言葉に、びびってんのか?と鼻で笑い藪に足を踏み入れる鈴木と大野。
なぜそんなに心霊スポットに行きたいのか?刺激が欲しいのだろうか?そんなに幽霊見たいのか?
普段から霊を見る佐藤君には、その辺の気持ちは理解のしようもない。
ただ前を行く3人の後をついていった。

同じ山の中、蝉の声が遠くに聞こえる。自分たちがいるこの場所だけは静寂に包まれているのを、佐藤君だけが感じていた。
それは、ここが危険な場所だと教えてくれていた。黒い靄も道の先から溢れてくる。

数メートルが果てしない距離に感じる。足が重い。
目の前に、赤い塗装が剥げた朽ちた鳥居が姿を現した。と同時に、鳥居から先に見えているだけで4体。確実に化け物クラスの霊。

「ここはヤバい。ホントにヤバい」
佐藤君の声が届くより先に、鈴木に霊がとり憑いた。下顎がない、痩せ細った女。お腹だけが膨れている。妊婦だったのだろうか。

女は鈴木の手に手を重ねた。
女の手がゆっくりとある場所を指差すと、鈴木の手もまた、その場所を指差した。

半ば崩れかけた社。
黒い靄の涌き出る源。大きさは1メートル四方ほどで、御神体だけが奉納されるくらいの小さなものだった。
その社を見た瞬間、佐藤君の体は動かなくなったそうです。金縛りなのか、それとも蛇に睨まれた蛙の状態なのか。

「うわー、すげーなここ。神社ちっちゃ!」
はしゃぐように笑う大野。鼻息のかかる距離に、もう1体の化け物が近寄る。
佐藤君が見ている前で、次々にとり憑かれていく。
はっと見ると、田口にも上半身だけの男の霊が。男はあからさまに田口の首に手をかけていた。

どうすることも出来ない事態に戸惑う佐藤君。それを尻目に、鈴木と女の霊が社に向かって歩いていく。
鈴木は、社の木の柵を蹴破ると、頭から上半身ごと中に入った。

「やめろ!」
叫びたかった。でも声すら出なかった。体も動かない。

「お、鈴木何やってんの?」
大野が言う。田口も社に近寄る。
鈴木はゆっくりと体をもとに戻した。その手には、小さな箱があったそうです。
恐らく御神体が入っているであろうその箱。開けたら終わり。何故か分からないが、そう確信した。
「これ、触ると死ぬって噂のやつ?鈴木さん触っちゃってんじゃん!」
田口と大野が騒ぐ。鈴木は完全に憑依されてしまったようで、無言で箱を開けようとする。

「さすがにヤバくないすか?」
「鈴木さん何か変すよ?」
田口と大野がただならぬ雰囲気に気づいた時には、その箱は開いてしまった。
「あれ?何もない?何か石ころ入ってる」
笑う大野。

何もない?見えないからだよ。佐藤君は震えながら目の前の光景を眺めていた。
黒く大きな靄が、一瞬人の形になった気がした。靄はまるで爆発するように膨れ上がり、一瞬で消えた。
その瞬間、頭に直接響く声。
「なぜ祈らない!なぜ供物を供えないのか!許せん!差し出せ!」
確かにそう聞こえたそうです。
パニックの佐藤君。言っている意味が分からない。
差し出せ?何を?問いかけに答えはなかった。

昔は名のある神様だった。いつからなのか、忘れられて手入れもされず、お供え物も祈る人もなくなってしまった。土地と人を守るべき神様は、自身の感情のままに人を恨み、怨念以上の何かに変わってしまった。

佐藤君のほほを涙が伝った。
それは彼の悲しみではなく、その神様の涙だったのだろうと思う。と、同時に差し出さねばならないものが分かってしまった。

「結局何もなかったなぁ、優子達待ってるから帰ろうぜ」
大野が言う。鈴木は無反応。
「鈴木さんさっきからおかしいすよ?」
田口が鈴木を軽く触ると、鈴木はその場に受け身もなく倒れた。
おい、ちょっと!と大慌ての2人。失神しているであろう鈴木を担ごうと必死で、佐藤何してんだよ!手伝え!と言われて、やっと我に帰った佐藤君。

鈴木を担ぎ上げ、来た道を戻る。後ろから、足音とうめき声が聞こえる。
2人にもそれは聞こえたらしい。
「振り向くな!」
佐藤君が怒鳴る。鳥居を越えると、音は聞こえなくなった。

車に戻った一行は、加奈と優子に状況を説明。未だに意識の戻らない鈴木を後部座席に寝かせ、加奈と優子が見ていることに。
田口が運転、佐藤君は助手席。大野は自分のバイクで車に付いてくるということで帰路についた。

病院に行くか?という話になったが、加奈が鈴木のアパートに連れて帰って様子を見ると言うので従うことに。もしかしたら明日には目が覚めるかも、と。

彼女に悪くて言えなかった。
自分自身、言うのが怖かった。
鈴木の意識は戻らないよ。分かってしまったから。差し出せ、の意味が分かってしまったから。
差し出すのは、「命」。


投稿者:TR