俺が専門学校を卒業して初めて働いた会社は社員数は30人程度で300坪程度の敷地に3階建ての小さな会社。
しかし、その頃はバブルが弾けたかどうかって時期で仕事は忙しく終るのは夜中の2時、3時、時には徹夜が当たり前だった。

しかし、社員みんながそんな残業をしていたかと言うとそうではない。
製造は21時から22時、たまに24時。
俺は検査を担当していたが検査の中でもそんな残業をしていたのは俺だけだ。

もちろん入社してすぐそんな残業をしていたわけではなく、研修期間を経て覚えてからだ。

いつもは検査課の部屋の奥にある小さな部屋のクリーンブースの中で顕微鏡を覗いているか、2階のクリーンルームで光学特性や表面粗さ等を測定していたのにその日は検査課の机に向かって仕事をしていた。
もちろん社内には俺だけだ。

時間は23時を少し過ぎた頃だった。
すぐ真後ろでピタピタって足音が聞こえた。
みんな帰ったはずだけどと思いながら振り向いたが誰もいない。
気のせいかと思いまた仕事をしているとまたすぐ真後ろでピタピタ。
足音が聞こえた。
振り向いて部屋中を見回してもやはり誰もいない。
そんな事を何回か繰り返しているうちに段々恐怖心が芽生えてくる。

しばらくして足音が聞こえなくなってホッとしていると今度は2階から子供の笑い声とドタバタ走り回る足音が聞こえてきた。

その頃には机での仕事も終り2階に測定に上がらないといけないのに勘弁してくれと心の中で呟く。
2階で作業をしていた製造の人達からこんな話を聞いた事もなかった。
怖くてなかなか2階に上がれない。

ふと同僚の机に大量のCDとラジカセがあるのに気がつき大音量で2階に上がる。
が、測定は消さないと出来ない。
どれ程の時間恐怖心と格闘しただろうか。
終らせないと帰れない。
どうにでもなれと意を決してCD止め測定を始める。
何も起きない。
足音も笑い声も走り回る音も何も聞こえない。
ホッとした。

そして何も起きないまま仕事が終った頃には朝になっていた。
何も起きなかった安堵感と仕事が無事に終った安心感に包まれながら、2階にある喫煙所で壁にもたれながらタバコに火をつけた時、いきなり聞いた事のない低い声で邪魔だ!どけ!と背中を突き飛ばされた。
思わずごめんと謝りながら振り返ると白い壁で誰もいない。
えっ?
辺りを見回すと窓硝子に俺を睨む目だけが映っていた。

その日以降、何故か会社での風当たりが妙に強くなって、何を言っても何をしても怒られるだけで認めて貰えなくなっていき、話相手も失い3ヶ月後に退社した。

退社後は誰とも会ってないし連絡もとっていないけど、あの目が原因なんだろうか?

退社してからは特に何も起こっていない。


投稿者:イナ